ぶあいそうな手紙の映画専門家レビュー一覧

ぶあいそうな手紙

ラテンアメリカの各映画祭で話題を集めたブラジル発の人間ドラマ。ブラジル南部の街。46年前に隣国ウルグアイからやって来た独り暮らしの老人エルネストの元に、一通の手紙が届く。視力の低下したエルネストは、若い女性ビアにその代読を頼むが……。出演は「ウィスキー」のホルヘ・ボラーニ、「僕と未来とブエノスアイレス」のホルヘ・デリア。
  • 映画評論家

    小野寺系

    老齢で視力をほぼ失うという深刻な事態に陥った主人公の物語としては、少々都合の良過ぎる展開に疑問が残ってしまう。とはいえ、“陽気な港”を意味する、監督の出生地ポルト・アレグレのおおらかな雰囲気には、希望を抱かせる穏やかな美しさがあるし、そこで表現される、人生に対する肩の力を抜いた楽観的な姿勢には大共感できる。けして観光的には撮られない街の風景と、ラストを彩るカエターノ・ヴェローゾの名曲が、さらにリアリティと豊かな味わいを本作に加えている。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    ウルグアイとアルゼンチンの軍事政権を逃れてブラジルで暮らす老主人公とその隣人に、孫世代のブラジル娘が加わり、とてもいい話が展開。ディテールの積み重ねの上手さが、主題にぴったり寄り添う。視力を失いつつある主人公は、話の鍵になる手紙が読めない。それに加え、祖国の言語スペイン語とブラジルの言語ポルトガル語との、言葉の問題も。全篇に散りばめられた高齢者の切実な状況とよどみないユーモアに和み、未来を手に入れる3人に安堵する一方、日本の厳しい現実がよぎる。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    派手な展開は皆無ながら最後には歳をとるのも悪くないと思わせてくれる素敵な小話で、頑固ジイさんと小悪魔娘との会話には滋味深さを感じるし、殆どアパート内で進む物語にまぶたが重くなる頃合いで夜の街に繰り出すシーンは解放感に溢れており、そこからは一気に面白くなるのだが、いっけん端正で堅実な演出は、人物の頭が切れた構図、主張強めな粒立った音楽の差し込み方、次のシーンの音を先行させる手法の濫用など微妙にクセがあり、映画のリズムを?むまで少し時間がかかった。

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