バルーン 奇蹟の脱出飛行の映画専門家レビュー一覧

バルーン 奇蹟の脱出飛行

東西ドイツ冷戦下、ある家族の奇想天外な“逃飛行”を映し出す実話サスペンス。1979年、東ドイツの電気技師ペーターとその家族は、手作りの熱気球で西ドイツを目指すが失敗。だが、ペーターは親友ギュンターの家族も巻き込み、再び気球による脱出作戦を決意する。出演は「マーラー 君に捧げるアダージョ」のフリードリヒ・ミュッケ、「ガーディアン」のカロリーヌ・シュッヘ、「愛を読むひと」のデヴィッド・クロス、「タクシー運転手 約束は海を越えて」のトーマス・クレッチマン。監督は『小さなバイキングビッケ』のミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ。
  • 映画評論家

    小野寺系

    一家の亡命計画を当局がすでに感知していて、逃亡側と捜査側が、ある程度お互いの手の内を知りながら頭脳戦を繰り広げる。そのあたりが「四十七人の刺客」を想起させる、本作の脚本的な面白さだ。同時に冷戦下の東ドイツを題材とする時代ものでもあり、自宅の風景や、ベルリンのホテルの大掛かりな描写、くわえてバルーンの組み立てなど、当時を再現する美術が素晴らしい。一方で、演出自体にはそれほど際立った特徴はなく、見やすい映画といえるものの、強い印象は残らなかった。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    わずか40年前の実話であることにある種の感慨を覚える。ベルリンの壁が崩壊したのも、思えばこの話の10年後だものなぁ。一度目の失敗にくじけず、シュタージの監視をかいくぐりながら、二度目を決心したことが要点。それだけに、話の起点となる主人公ペーターとギュンターが西側への脱出を決意する背景にふれて欲しかった。確かに結末に至る間にハラハラさせるエピソードをいい具合に配置してスリリングな効果もあり面白く見られるが、話の起点がないので、根っこが脆弱の感もある。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    東西分断時代のドイツの実話ベースの物語でありながら歴史的背景などは必要最低限しか描写されていないため、社会派エレメントを期待すると肩透かしを食らうかもしれないが、気球を使って壁を超えるという脱出サスペンスとしては満点の出来で、脱出組VS秘密警察の攻防を家族愛で味付けした展開や、たまさか仕掛けられるミスリードなどは至りて古典的であるにもかかわらず、剛腕ストレートな演出力で最後までまったく飽きさせることなく観せきる、単純に無茶苦茶面白い映画だった。

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