タッチ・ミー・ノット ローラと秘密のカウンセリングの映画専門家レビュー一覧

タッチ・ミー・ノット ローラと秘密のカウンセリング

第68回ベルリン国際映画祭で金熊賞と最優秀新人作品賞をW受賞したヒューマンドラマ。強迫性障がいを抱える孤独な女性ローラは、ある日、病院で無毛症の男と車椅子の患者同士が互いの身体に触れ合うことで自分を見つめていく不思議なカウンセリングを目撃する。出演は「お家に帰りたい」のローラ・ベンソン、「氷の国のノイ」のトーマス・レマルキス。ルーマニア出身のアディナ・ピンティリエ監督による初長編。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    「なぜこの映画のことを聞かなかったの?」静謐すぎる画面の奥からストレートに問いかける。幾度も変奏される「言葉にし難い」という台詞。ヨーロッパ芸術史上の表象不可能とは全く異なる同じ問いが浮上する。人との親密性や触れ合い、生きることは傷を負うことだ。しかしそれを恐れては相互の理解も自身のトラウマの解決には向かわない。この刺青は個人的内容だと説明を遮断する男娼。皮膚はどこまでその人の所有物なのか。これはマイノリティだけではなく人類共通の物語だ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    ローラ・ベンソンとトーマス・レマルキス、二俳優がそれぞれトランスセクシャル、筋萎縮症患者らからアイデンティティや性の自閉についてカウセリングを受けるセミドキュメント。思わせぶりな間をはさみ哲学的な問答、生々しい性行為、SMパーティ描写などを重ねたアート志向演出だが、本質は「ホドロフスキーのサイコマジック」と同じ「下半身の悩み相談」。ユーモアを排し必要以上に高等遊民趣味を装った映像のせいで説教くさく、観客は性欲の解放より抑圧を感じる可能性も。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    生々しい性器の映像、またはトランスジェンダーや障がい者の裸を捉えることで、何かを成し遂げた気分になっているのは浅薄。肌の触れ合いという原初的な希求は重要だけれど、全裸の中年女性がダンスをするラストは、頑張った学生映画のようで恥ずかしい。所々ハッとするショットもありつつ、基本的には摸索を始めたばかりの女性映画という印象。観念的なセリフも実は当たり前のことを言っているにすぎない空虚さで、奇抜を狙う平凡さは心に引っかからない。

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