今宵、212号室での映画専門家レビュー一覧

今宵、212号室で

シャンソンの名曲にのせてパリのホテルで繰り広げられる軽妙洒脱なラブ・ストーリー。夫と喧嘩したマリアは、一晩だけアパルトマンの真向かいのホテルで過ごすことに。すると20年前の夫をはじめ、歴代の元カレたちが次々と登場、不思議な一夜が幕を開ける……。主人公マリアを演じるのは、本作で第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門最優秀演技賞を受賞したキアラ・マストロヤンニ。共演は「アマンダと僕」のヴァンサン・ラコスト、「マリアンヌ」のカミーユ・コッタン。監督は「愛のあしあと」のクリストフ・オノレ。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    ひとりの人間のたった数時間のなかに、過去や未来、通り過ぎた人々や会ったことのない人物、更にその人の未来が折り畳まれ、彼らの人生が彼ら主体で生き生きと繰り広げられる。なんというアイディア。自宅のアパルトマンに散乱しているたくさんの書籍の星座は、一冊の本を開けばたちまちそれぞれの世界や宇宙が蠢きだす。もはや新しい手法ではないがミュージカルのように使用される数々の名曲は、それぞれ独自の世界を持ち、観客もその名曲に対して個人的体験や記憶が想起される。

  • フリーライター

    藤木TDC

    キアラ・マストロヤンニ47歳が実によく脱ぐのがどうにも気恥ずかしい。妻の浮気発覚で危機にある夫婦の目の前に、時空を超えて過去に関係した異性が現れ干渉を始める不条理劇で、女が奔放多情、男が純情貞淑の設定がいかにも現代的。舞台劇として小劇場で観たら魅力的だったろうが、リアリティを伴う映画で観ると脚本の未整理が気になり、終盤、収拾つかずグダグダの印象も。男性がひとり観る類いの物語ではなく、観賞後に結婚観や謎解きを語りあうお喋り相手を同伴しないと虚しい。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    宣伝に「ファンタスティック」という惹句があるが、空想的というよりむしろ場当たり的というか、脈絡なく様々な年齢の登場人物たちを引き合わせただけに見える。時間軸が揺れるのは構わないが、理不尽で辻褄の合わない話で済むならなんとでも出来るだろう。ただ、特定の若い年齢の男性にだけ惹かれる中年女性の設定は興味が湧いた。若い女性ばかり選ぶ中年男性がいるように、こういう女もいる。特定の世代の愛人が並ぶ絵面は、同性でも呆れると同時にある種の誇張された現実を見た。

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