鵞鳥湖の夜の映画専門家レビュー一覧

鵞鳥湖の夜

ベルリン国際映画祭金熊賞・銀熊賞(男優賞)受賞作「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督によるサスペンス。誤って警官を射殺したチョウは、懸けられた報奨金を妻子に残そうと画策。妻の代理として来た娼婦アイアイと行動する彼を警察や窃盗団が追い……。孤独なアウトサイダー、チョウを「1911」のフー・ゴーが、水辺の娼婦・水浴嬢のアイアイを「薄氷の殺人」のグイ・ルンメイが演じ、中国アンダーグランドの犯罪や社会の底辺で生きる人間たちの現実を描く。第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    「薄氷の殺人」同様にアジア的色彩の持つ深淵に蠢く不可視の人間模様。ひと昔前のリゾート地が持つ独特な不法アジール感。二日目の豪雨は鵞鳥湖がひっくり返ったように、湖面、敵味方、善悪の彼岸が臨界を迎える。前作は男性性の復権、今作はある意味女性性の自立・復権。犯罪現場とは倫理の侵犯であると同時に、性の侵犯も起こりやすい。前作の物語の中心的なアイスリンクが溶解し湖となり、同様にそこに漕ぎ出した小舟の上には、もはや名前や役職のない純粋な人間だけがいた。

  • フリーライター

    藤木TDC

    古い日本映画の愛好者なら鈴木清順だ、石井隆だ、石井輝男だとニヤニヤワクワクしながら画面に釘付けになるだろう。ヤクザと娼婦の悲劇的道行きというVシネマ的題材を中国の荒んだ地方都市を背景に格調高く変奏するハードボイルドだが、オマージュ一辺倒ではなく、現在にしかありえない独特な“中華ノワール”の世界を強固に確立していて引き込まれる。同じ監督の前作「薄氷の殺人」以上にヒロインが薄幸で貧相、しかも成人映画まがいに乱される姿もオッサン客の溜飲を下げるはず。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    撮影のシルエットと光を通したカラー、空間の使い方は素晴らしい。しかし「薄氷の殺人」のギリギリなんとか理解できる語りすぎない話法が、本作ではあまりに不親切になり、意味不明な部分を多くはらむようになっている。良い意味で田舎臭かった前作と違い、アート色の強い演出はATG作品のようで逆にダサい。グイ・ルンメイの魅力だけで引っ張るのも難しく、意外にも作り手の本質が窃盗団の男と娼婦の出会いという、ありがちなドラマへ置きに行くタイプなのが露わになった。

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