世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカの映画専門家レビュー一覧

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ

2010~2015年にウルグアイの大統領を務めたホセ・ムヒカを、世界三大映画祭受賞監督エミール・クストリッツァが追ったドキュメンタリー。収入の大半を寄付、職務の合間に農業に勤しみ、質素な暮らしぶりから世界一貧しい大統領と言われたムヒカの人生に迫る。2014年にムヒカの撮影を開始し、大統領としての任期満了する瞬間までを捉え、“ペペ”と呼ばれ国民に愛された大統領の功績と過去を掘り起こす。第75回ヴェネツィア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門上映作品。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    クストリッツァが直感で「世界でただ一人腐敗していない政治家」と言わしめたムヒカ。そうなのだ。誰もが一瞥で直感させられてしまう能力。そして分かりやすい言葉、人に伝える力、献身ぶりや信念に従った生き方でさらに人を虜にしていく。これは別の星の出来事かと疑いたくなり、理由が分からないが泣けてくる。それは我々の国の「政治家」と呼ばれている人間たちとあまりにもかけ離れているせいなのか。命懸けで戦ってきた人物と対峙するためにクストリッツァも全力で真剣だ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    サッカー国際試合ぐらいしか話題にならない南米ウルグアイ。本作は74分の小品ながら同国の苛烈な現代史と元大統領の特異な経歴が凝縮されている。日本ではチャーミングな清貧主義大統領との報道ばかりだったホセ・ムヒカ。ユーゴ内戦を経験したクストリッツァ監督は彼のゲリラ闘争時代に目をつむらず、執拗に聞き出し映像で再現、コスタ=ガヴラス「戒厳令」(73年)の後日に接続させる。銀行強盗の過去さえ恥じず回想するホセの迷いなき政治哲学。戦い続けた男の言葉は感動的だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    クストリッツァには根底にマチズモを感じていたので、彼が「世界でただ1人腐敗していない政治家だと直感」したという煽り文句が強すぎて落ち着かない。とはいえ硬派な編集にその片鱗が見えつつ、ムヒカの意外な過去を掘り起こしていくインタビューはさすがの人間力。ナルシシズム以外の理由で、切り返しでクストリッツァの顔を何度も写す必要があるのか受けとめ方には悩む。正攻法な政治的ドキュメンタリーなので、これまでの監督の作風を求めるタイプの作品ではない。

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