カツベン!の映画専門家レビュー一覧

カツベン!

「Shall we ダンス?」の周防正行監督が、無声映画上映時に作品の内容を解説する活動弁士を取り上げた青春喜劇。一流の活動弁士を目指す俊太郎は、隣町のライバル館に客も人材も取られ人使いの荒い館主夫婦ら曲者ばかりが残った映画館・青木館に流れ着く。主人公の俊太郎を「愛がなんだ」の成田凌が演じる。作中には、「椿姫」(1921)を再現した「椿姫」や1932年版を参考に制作した「金色夜叉」などの元のある再現作品や、「南方のロマンス」などといった本作オリジナルの無声映画が登場する。第32回東京国際映画祭特別招待GALAスクリーニング作品。
  • 映画評論家

    川口敦子

    「お勉強映画」でなく「あの時代の活気ある映画界を描きたかった」と語る監督周防。その「楽しさ」優先の姿勢に裏打ちされた映画は“はしゃぎ”の一歩手前で踏みとどまり若かった映画をめぐる人々の健やかな意気をまずは伝えてみせる。無声映画の身体性への敬意が弁士の口跡を、そうして物語そのものをも息づかせる。濡れた子犬みたいな成田の上目遣いの活用法も見逃せない。粗を探すより素直に楽しさに乗りたい気にさせる。それも技だ。境界の箪笥の引き出し両面使い、面白い!

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    さる著名な評論家は、活弁を「無声映画の完成度を貶める」ものとして批判したが、そのような無声映画原理主義と日本における活弁の発達史を対立軸にしてドラマを仕立ててしまう慧眼に虚を突かれた。が、この映画はそうしたトリヴィアの開陳に終わらず、無声映画のスラップスティックをそのまま現代に復興させようとする二重の批評性によって、映画自身による映画への自己言及性の息苦しさから物語をあざやかに解放してみせる。周防正行の面目躍如たる「実験的娯楽映画」だ。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    百年前の話を、ドタバタを入れて語りぬいている。「菊とギロチン」や「金子文子と朴烈」のような時代状況への向かい方はない。意外なのは、サイレント映画と活弁に対して、史的事実への興味もフェティッシュの対象とするような執着もさほどなさそうに撮られていること。思い入れでもノスタルジーでもないとしたら、用意周到の周防監督にこの題材を選ばせたのは何か。ラストのめちゃくちゃつなぎのフィルムで何を納得させたかったのかとともに、よくわからなかった。でも楽しんで見た。

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