「いのちの紐」のストーリー

6月の夕暮れ。シアトル市立自殺防止協会に1人の女性から電話がかかってきた。そして、電話を受けた宿直のアルバイト学生、ニューウェル(シドニー・ポワチエ)の顔はみるみるうちに蒼白となった。女はインガ(アン・バンクロフト)という中年の女性で、夫マーク(スティーヴン・ヒル)との不和から、睡眠剤の致死量を飲んだというだけで、住所やその他一切のことははっきり聞きとれぬ状態だったからだ。この瞬間から、1本の電話線が女の命をつなぎとめるかぼそい糸になった。ニューウェルはインガと話を続けて、なんとかして住所を聞き出そうとつとめながら、一方では彼女の生命を救う手配をしなければならなかった。大ぜいの人間がニューウェルに加わって、インガの生命を救う戦いが始まった。すでに帰宅していたコバーン博士(テリー・サヴァラス)が協会に戻ってきた。さらに電話会社と警察が逆探知で、広い地図の中から女の居場所をしぼっていった。彼らの必死の努力にもかかわらず刻々と時間は迫り、ニューウェルにとって残された唯一の手段は、インガに勇気をふるいおこして、生きることの尊さを訴えることしかなかった。しかしながらニューウェルの声が大きくなればなる程インガの声は細く弱くなっていった。コバーン博士の後8分しかないという声をニューウェルが耳にした時、インガの声が聞こえなくなった。受話器を片手に、がっくりひざまずくニューウェルの側にいつしかマークの途方にくれた姿があった。その時、別の声が電話から聞こえてきた。警察からだった。インガがみつかり、まだ呼吸があるというのだった。インガは救われた。ニューウェルは喜んでいる人々のあいだで、複雑な感情を抱きながら、静かに彼の受持ちの電話に戻って、次の電話の受話器をとりあげた。