「ゼンダ城の虜(1922)」のストーリー

英国名門ラッセンディル家の当主ルドルフは大の旅行家で、欧州の一王国ルリタニアを訪れた。そもそもこの王国の王家とラッセンディル家とは遠からぬ血縁の間柄でその事実も彼の好奇心をひいた。丁度彼が訪れた翌日はこの国の王たるべきやはり彼と同名のルドルフの戴冠式の挙げられるる折柄であった。ルドルフ大王には義弟に当たるミハエル大公は腹黒い謀略家で、密かにこの国の王位と、王となった暁にはやがて結婚すべき美しいフラディア姫とを狙っていたが、既に戴冠式の明日に迫る今日、彼はルドルフ王を己が猟場へ招き酒飲みの兄を酔い痺れさせ式の挙げられぬ様にすべく、腹心の者ルパートを使いして毒酒を送った。一方王の忠臣サプト大佐と山中で偶然逢った旅行家ラッセンディルは王と酷似するその相貌や遠縁に当たる厚誼でこの猟小屋に案内されていたが、ミハエルの悪計により翌朝身体の自由を失ったルドルフ大王の身代わりとなり、とにかく戴冠式を恙く済ませる事を、大佐に懇願された時、彼はこの老忠臣の心事を諒しそれを承諾した。民衆の祝意の中に又悪計成れりと微笑んだミハエルの驚愕の中に、身代わりの王ラッセンディルは冒険に伴う不安と好奇心の満足とを味わいながら式を終わった。彼の王に酷似する事は姫フラヴィアすらも気がつかなかったが、不幸にもミハエルに純な情愛を捧げているフランスの女アントアネットは兼ねてからラッセンディルと知己の間なので忽ち彼女はこの間の秘密を知り恋人ミハエル大公に知らした。かくて悪人側の手により真のルドルフ王は猟小屋からゼンダの城に移され憐れ命さえ風前の燈火に比すべき虜となった。かつて民意を解せず飲酒癖のあるルドルフ大王との結婚を嫌っていた姫フラヴィアは、戴冠式以来王が高潔な面も平民的な人格者となったので、今は心から彼を恋し結婚の日を待つ様になったが、なんぞ図らんその実は王とはラッセンディルなのである。身代わりとなった王位等は惜しからねど姫フラヴィアの愛はラッセンディルの胸に深い痛手を負わした。彼はしかしあくまでも真の王の救助の為に忠臣サプト大佐と協力し、ある時は命を失わんとしある時は深き負傷を身に受けながら悪人と闘いミハエル一派を破って首尾よくゼンダ城から真の王ルドルフを救い出した。忠臣の口から始めて恋する王が実は英人ラッセンディルである事を明かされた時、姫フラヴィアの心は憐れにも惑い悲しんだ。恋か国家か、聡明な姫は壊れたる恋の苦汁を堪えて国の為民の為にラッセンディルの帰英を諾した。悲しみは同じラッセンディルも、はかなかりしこの恋を深くも胸に秘めつ、故郷の地を指して永へにこの想出の国ルリタニアの地を去っていった。