「今晩は愛して頂戴ナ」のストーリー

パリッ子モーリスは貧乏な仕立屋でした。腕はよし、おまけに陽気で明るくて気前が好く呑気なので誰からも好かれますが、難点と言えばあまり気前が好すぎることで、例えば勘定を払わないお客を一番大切にする様なことです。ある時、パリの債券者組合員から忠告され、生まれて初めて彼の一番大切にしていたお得意先、パリ切っての伊達男で、着道楽で、まだ一度も支払ったことのないギルバート子爵の豪華なる御殿にやって参りますと子爵は伯父のダルテリン公爵の手前、仕立屋風情から借金の催促をくっている醜態を見られるのが辛さに急場の難関突破の一策を案出し、モーリスを高貴の紳士に仕立ててこれを公爵に紹介し、しばらくここにとどまっておればその仲折を見て公爵からお金を貰って払ってやると言います。モーリスは初めどうしても気が進まなかったのですが、その時現れた公爵の姪、美しいジャネット姫に引き会わされるとたちまちすなおになって御殿に滞在することを承諾します。晴れたそれのようにほがらかのモーリスと若く美しく寂しげなジャネット姫とは彼らを隔てる身分の違いを飛び越えて直ぐに愛し合うようになりますが商売柄彼の衣装に対するズバ抜けた敏感さから遂に彼の素性は明らかになり、驚きと失望に打ちのめされた姫に別れ、御殿を後に汽車に乗って行方も知らず去ろうとします。ジャネット姫は馬に乗って汽車に追いつき、仕立屋でもかまわないと言うので汽車は止められ、彼女は彼の腕に抱かれ真の幸福を知り、走り行く汽車の中で「今晩愛して頂戴ナ」と唄います。