「月世界征服(1931)」のストーリー

ニューヨーク株式街の人気男ラリー・デイは、株式の売買をフットボールと同じように心得、運動競技的な切り盛りして名を成している男であった。あまり仕事熱心のため婦人を省みる暇を持たず、恋愛についてもいっさい無関心であったが、その超人間ぶりに興味を持ったのは、社交界の花形ヴィヴィアン・ベントンである。ヴィヴィアンはラリーの執務時間中を訪れ、まんまと彼の心を捕らえたが、それだけでは面白くないので食事の約束をしたまま自分はヨーローッパ行きの汽船にのりこんでしまう。すっぽかされてみるとラリーは急にヴィヴィアンに対して強い愛着を覚え、さしも仕事好きだった彼がそれを放りなげて彼女の後を追った。ようやくヴィヴィアンの乗り込む汽船にかろうじて間に合ったものの、やがて大西洋上に出た頃ラリーは彼女にホーレス・パーティントン・チェルムスフォードという貴族の婚約者のいることを知って驚く。しかし何とかして思いを達せんと望むラリーはその道の奥義を究める召使いのロヂャーからよき知恵を授けてもらい教えられるままに色々の手管を用いて彼女の心を獲得せんと努めた。ラリー不在中に株式街に大恐慌突発し、ラリーの店も破産の憂き目を見ることになり悲報は航海中の彼の手元に飛んだが、今はヴィヴィアンのことで夢中になっている彼としては仕事のことなど眼中になかった。どうしてもヴィヴィアンの心が傾かぬのを見て取ったロヂャーは最後の手段として蛮力主義に出るよう主人にすすめる。そこでラリーは酒をあおってその手はずにとりかかった。ところが元気をつけるためにあおった酒の量が多すぎたため彼は手のつけられぬ凶暴性をおび船内を荒れ回る。だが結局、計画は失敗に帰し、ラリーはついにヴィヴィアンを断念せねばならなくなった。そして彼は帰国を決心する。しかるに、ヴィヴィアンはロヂャーからラリーの身におこった大問題を聞き、ようやく彼に対して真面目な考えを持つようになった。そしてその上ラリーと語り合ってみると仕事に対しても恋愛についても許嫁のチェルムスフォードなどにはとうてい求められない男らしい意気込みをもっているので、それにひきつけられた彼女はただちに彼の花嫁となることを承諾したのである。