日本で中国時代劇ドラマのブームを巻き起こしたシャオ・ジャン、ワン・イーボー主演の大ヒット・ファンタジー『陳情令』がBSJapanext(ビーエスジャパネクスト)にて1月4日より無料放送スタート。本作が2020年の日本初放送から今なお多くのファンを生んでロングランヒットを続ける理由は、原作小説やアニメ化作品、キャストの人気が高いだけでなく、一大エンタメ産業に成長した中国ドラマの魅力が詰まった作品だからと言える。

特に本作は80〜90年代に香港で映画・ドラマに携わり、香港返還後は中国ドラマ界でも活躍するチェン・ワイマン(鄭偉文)とチャン・カーラム(陳家霖)が監督を務めた作品。映画ファンにとっては往年の香港映画のDNAを見つけて楽しむこともできる『陳情令』の見どころを掘り下げてみたい。

 

怖いけど面白い!香港ホラーコメディのDNA

『陳情令』の第1話は主人公・魏無羨(ウェイ・ウーシエン)が断崖から落ちていく凄惨なシーンから始まる。若くして名声を得た青年がなぜ悲惨な末路を迎えたのか? 遺体すら見つからないまま16年の時が経った今、自分を虐げた一族への敵討ちを願う莫玄羽(モー・シュエンユー)が呪術により魏無羨を蘇らせる。

不気味な雰囲気の中で不意に突風が巻き起こり、朱色で呪文が書かれた黄色の霊符がたなびくのは、中国版ゾンビ“キョンシー”ブームを巻き起こした「霊幻道士」(85)シリーズを想起させるシーン。その後、何かに取り憑かれた莫家の人々がモンスター化するが、その謎に魏無羨はユーモアのある飄々とした態度で立ち向かう。そんな怖さの中に笑いが織り込まれた演出も当時の香港ホラーを思わせ、奇奇怪怪な物語世界にあっという間に引き込まれてしまう。

なお、魏無羨をはじめとする主要な登場人物たちは妖魔を退治する仙術を修行した“仙師”という設定。「霊幻道士」のような頭に冠巾をかぶったひょうきんな“道士”のイメージとは違って、見目麗しい美青年ぞろいの“仙師”たちが長い髪をたなびかせて神秘的な術を使うのは、ビジュアルの美しさも人気の秘密となっている今時の中国ドラマらしい魅力と言えるだろう。


アクションがすごい!ツイ・ハーク映画のDNA

第2話で魏無羨がかつての親友・藍忘機(ラン・ワンジー)と再会すると、物語は16年前に遡る。仙師たちを擁する温氏、藍氏、江氏、聶氏、金氏の五大世家が勢力を誇る世界では、水面下である陰謀が進行している。そんな中、魏無羨は藍忘機と共に正義のために力を尽くすが、壮絶な戦いの末に彼は悪の汚名を着せられてしまった。そして現在、その陰謀の真相を解き明かすための新たな戦いが幕を開ける。

こうした仙人・仙術の概念と複数の組織が正邪の戦いを繰り広げる武侠の世界観が融合したジャンルは“仙侠ファンタジー”と呼ばれる。その名作として挙げられるのがツイ・ハーク(徐克)監督の映画「蜀山奇傅 天空の剣」(84)。かつて子役として「七福星」(85)などに出演、幼い頃から香港映画界で育ったチャン・カーラムはあるインタビューで、監督を志したきっかけはツイ・ハークの演出に感銘を受けたからだと語っていた。それだけに『陳情令』においてもその影響は一目瞭然。ワイヤーアクションに特殊効果を合わせたバトルシーンは臨場感がありながら幻想的で、多くの人物が入り乱れて戦う群像アクションにはダイナミズムを感じることができる。

また、劇中の戦闘では魏無羨が横笛、藍忘機が琴を使うシーンが印象的。このように楽器が武器として登場したり、奏でられる音楽が物語である役割を果たしたりするのは、武侠映画ではお馴染みのギミック。かつて金庸の武侠小説「笑傲江湖」の映画化「スウォーズマン 剣士列伝」(90)は登場人物たちが演奏するテーマ曲が大ヒットしたが、『陳情令』もリン・ハイ(林海)による古風な趣のある劇伴が妖美な物語世界を表現する重要な要素となっているのに注目だ。


ブロマンスが泣ける!香港ノワールのDNA

さらに、それぞれの使命を負った主人公たちが死と隣り合わせの戦いの中でブロマンスのドラマを繰り広げるのも、『陳情令』においては外せない見どころだろう。自由奔放な魏無羨、生真面目な藍忘機、正反対のタイプの二人は志を同じくしながらも、いつしか進む道が分かれて親友から敵対する関係に。それでも固い絆を失わずに、互いのために命を懸け苛酷な運命と対峙するエモーショナルな展開が待ち受ける。

そんな男同士の深い人間ドラマと言えば、義兄弟の契りを結んで生死を共にする男たちが登場する中国の古典「三国志演義」「水滸伝」から、敵味方の関係を越えた男たちの友情を描く香港ノワール映画に至るまで、人々を惹きつけてやまないテーマ。殺し屋とそれを追う刑事に絆が生まれるジョン・ウー(呉宇森)監督の代表作「狼 男たちの挽歌・最終章」(89)や、マフィアと警官が互いの組織に潜入して好敵手となる「インファナル・アフェア」(02)といった往年の香港ノワール映画好きなら、『陳情令』が描き出すこの深遠なブロマンスにも大いに心を揺さぶられることだろう。

このように懐かしの香港映画を愛するファンにも刺さる様々なポイントが隠されている『陳情令』。本作を観ればノスタルジーを感じる面白さだけでなく今の中国ドラマが持つ新しい魅力も発見できる、そんなエキサイティングなドラマ体験ができるはずだ。


文=小酒真由子 制作=キネマ旬報社

 


「陳情令」
★1月4日(木)より毎週火~金曜日 午前11時00分~ひる12時00分
★BSJapanext(ビーエスジャパネクスト)BS263ch にて放送

★監督:チェン・ワイマン(鄭偉文)、チャン・カーラム(陳家霖)
★出演:シャオ・ジャン(肖戦)ワン・イーボー(王一博)ワン・ジュオチョン(汪卓成)シュエン・ルー(宣璐)リウ・ハイクアン(劉海寛)


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公式HP:https://www.bsjapanext.co.jp/program/c_chinjorei/

 

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