映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 ―「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち

我が子の死の真相を求め続けた遺族たちの10年間の記録

2011年3月11日に起きた未曾有の震災で、未だ行方不明の4人を含む74人の児童と10人の教職員が津波に呑まれた、宮城県石巻市の大川小学校。甚大な犠牲を生むことになった経緯に納得できない遺族を、裁判に訴えるほかない苦渋の決断へと追いやり、仙台高裁にて〝平時からの組織的過失〞なる画期的な判決を導き出すに至った軌跡を、目を背けず真摯に見つめる。

貴重な生存者で証言者でもある大川小の教務主任に沈黙を強いる石巻市教育委員会の説明会や、一般論に終始する文科省主導による事故検証委員会。本作が初長篇ドキュメンタリー映画となる寺田和弘監督は、真相究明の拠り所となるべき機会が無意味に回だけを重ねる映像を、淡々と提示することで、当時の現場で何が起きたか知りたい遺族と、責任の所在を曖昧にして事態の収拾を急ぐ行政とのあいだで溝が深まっていくさまを、皮肉なほど克明に伝える。

 

国家賠償を求めて提訴へと踏み切ることは、悲嘆に暮れる親たちに、愛する我が子の生命に値段をつける残酷な行為を強いることをも意味する。そんな事情も顧みず金目当てと責め立てる誹謗中傷にも耐え、避難し得た裏山へ闘病中ながらも疾走を試みる亡き児童の父君ら原告団は、もっと生きたかった子どもたちの最後の声や見た景色に懸命に思いを馳せ、請求内容を裏付ける資料をつくるべく自ら検証を進める。

大川小の児童をはじめ、震災で犠牲となったひとりひとりの無念が、悲しみや絶望に打ちひしがれながらも、真実を追い求め続けた遺族たちの涙ぐましい献身によって、これからの災害対策の中で実を結ぶ。壮絶な悲劇に差し込むかすかな光が、誰しも当事者たり得る切実さで、心を激しく突き動かす力篇だ。

 

文=服部香穂里 制作=キネマ旬報社
(キネマ旬報2023年4月上旬号より転載)

 

 


「生きる」 大川小学校 津波裁判を闘った人たち

【あらすじ】
東日本大震災で、地震発生から津波の到達まで1時間弱の猶予があったにもかかわらず、近隣の学校で唯一多数の犠牲者を出した、宮城県石巻市立大川小学校。当時の真相を知りたい遺族たちが、誠意の感じられない対応を続ける行政への不信感を募らせ、心ならずも石巻市と宮城県に賠償を求める裁判を起こし、異例の判決を勝ち取るまでの10年の歩みを映し出す。

【STAFF & CAST】
監督:寺田和弘
協力:大川小学校児童津波被災遺族原告団、吉岡和弘、齋藤雅弘

配給:きろくびと
日本/2022年/124分/区分G

2023年、全国順次公開中

©2022 PAO NETWORK INC. 2022年文部科学省選定作品

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