庵野秀明と樋口真嗣が最先端の技術を結集させ「シン・ウルトラマン」で描きたかったこととは?

1966年のテレビ放送開始から、半世紀以上にわたって人々の心を捉え続けてきたウルトラマン。そのウルトラマンが、「シン・ゴジラ」(16)の庵野秀明と樋口真嗣のタッグによって、2022年に「シン・ウルトラマン」としてスクリーンに新しく蘇り、特撮ファンのみならず、多くの映画ファンの間でも大きな話題となったことは記憶に新しい。そんな本作の製作に迫る特典映像が収録されたBlu-ray特別版をはじめ、Blu-ray&DVDが4月12日にリリースされる。

芸術家・成田亨デザインのウルトラマンへの原点回帰

物語の舞台となるのは、正体不明の巨大生物「禍威獣(カイジュウ)」が次々と出現する現代の日本。その災害対策を目的とした組織、通称「禍特対(カトクタイ)」チームが対応に当たる中、突如、人間と同じ形をした銀色の巨人が現れる。
 
ネロンガやガボラなど、初代ウルトラマンにも登場したお馴染みの禍威獣たちや、ウルトラマンから放たれる必殺技「スペシウム光線」など、最新のCG技術を駆使して表現されたアクションシーンは、本作の大きなハイライトだろう。ミニチュア感が漂う風景など、特撮ならではのアナログな質感はあえて残しながらも、「現代にウルトラマンが現れたら」という世界を最大限に魅せてくれる。一方で、その戦いを見守り、時に加勢する禍特対チームの場面は、防衛省や自衛隊の協力を得て実際の駐屯地で撮影され、戦闘車やヘリコプター、護衛艦など数多くの装備品や、本物の自衛隊員が登場し、徹底したリアリティの中で描かれている。Blu-ray特別版に収録された特典映像では、そうした映像の制作背景を、監督の樋口や出演者のコメントと共に知ることができる。


少年期、初代ウルトラマンのテレビ放送に熱狂していたという庵野と樋口が企画当初からこだわっていたのは、芸術家・成田亨がデザインしたウルトラマンの姿に原点回帰することだった。カラータイマーも目の覗き穴もない、一切の無駄が省かれた美しいフォルムは、成田亨が当初目指していたウルトラマンの姿であり、特典映像の「CG Modeling Movie」には、3DCGで作られたウルトラマンが、どのように修正工程を重ねていったのかを記録したテスト映像、「VFX Breakdown」には、スペシウム光線をはじめとしたアクションシーンがどのように構築されていったのか、モーションキャプチャー撮影の制作過程が収録されている。また、特典映像には、樋口監督監修のもとで制作された異色のスピンオフ作品「シン・ウルトラファイト」全話も収録されている。劇中とはまた違う、ウルトラマンや禍威獣たちの新たな一面に触れることができる、ファン必見の映像だ。

最先端の映像技術が生み出した本作が問いかけるもの

特撮というエンタテインメントの中に、時代背景や社会問題など、ジャーナリズムも描かれているのがウルトラマンシリーズの特徴であったように、人間に友好条約を迫ってくる外星人の出現に右往左往する国のリーダーや、その対策に振り回される禍特対のメンバーなど、本作でも、人間側のドラマが次第に色濃くなっていく。そうした“地上”の場面が決して単調になることなく、臨場感を持って描かれているのは、画期的な撮影方法によるところも大きい。
 
クランクインの時期に4Kで撮影可能なiPhoneが発売され、樋口はそれを積極的に導入。カメラマンが入り込めない本棚の隙間や机の下など、あらゆるアングルにiPhoneを設置し、時には役者自身がiPhoneを持って芝居をしながら撮影することもあった。ドキュメンタリー映像のような、親密な距離感で演者に迫るその画角は、現実と虚構が交差していく物語を、緊迫感と、ある種の異質さを持って切り取っていく。
 
そうした撮影の様子は、特典映像「撮影メイキング -狭間の存在-」で垣間見ることができるが、禍特対班長の田村君男を演じた西島秀俊は、「最先端の撮り方で、まだ進化する可能性と未来があるというのを感じました。面白くて仕方なかったですね」と目を輝かせて語り、“ウルトラマンになる男”こと神永新二を演じた斎藤工も「撮影は過密でしたが、好奇心が現場の現実を凌駕していくのを何度も感じました」と話している。そうした出演者の表情からは、“この映像技術が日本映画の最先端なのだ”という確信と、可能性を追い求める好奇心で、現場が一丸となっていった様子が伝わってくる。

劇中には、地上の人々が、飛び立つウルトラマンを見上げる姿が何度も登場する。それは、畏怖のようなものから、次第に祈りに近い眼差しに変わっていくが、本作は、“人智を超えた存在”と“人間”の狭間であるウルトラマンの姿を通して、“人間とはなにか”という根源的な問いを観る者に突きつけてくる。ウルトラマンの言葉を借りるなら、私たち「幼い人類」が、英知を捨てずに生きるとはどういうことなのか。混迷の時代である今だからこそ、映画で描かれた彼らの姿に、素直に希望を見出したくなってしまうのだ。そして、メイキング映像に記録されていた現場のムードは、「シン・ウルトラマン」に込められたその問いの、答えのひとつだったのではないか。創造性と好奇心に満ちたこの作品は、未来に希望を抱くことが難しくなってしまった今、多くの人に必要とされるはずだ。

文=安達友絵 制作=キネマ旬報社

 

Blu-ray 特別版 4K Ultra HD Blu-ray 同梱4 枚組

「シン・ウルトラマン」
●4月12日(水)Blu-ray&DVDリリース
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら 

●Blu-ray 特別版 4K Ultra HD Blu-ray 同梱4枚組:9,680円(税込)
【映像特典】
プロモーション映像集/イベント映像集/撮影メイキング -狭間の存在-/CG Modeling Movie/VFX Breakdown/シン・ウルトラファイト(全話)
デジタル配信映像特典

●Blu-ray 特別版3枚組:7,480円(税込)
【映像特典】
プロモーション映像集/イベント映像集/撮影メイキング -狭間の存在-/CG Modeling Movie/VFX Breakdown/シン・ウルトラファイト(全話)
デジタル配信映像特典

●Blu-ray2枚組:5,280円(税込)
【映像特典】
プロモーション映像集/イベント映像集
デジタル配信映像特典

●DVD2枚組:4,180円(税込)
【映像特典】
プロモーション映像集/イベント映像集

●2022年/日本/本編113分
●出演:斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、嶋田久作、益岡徹、長塚圭史、山崎一、和田聰宏
●企画・脚本:庵野秀明
●監督:樋口真嗣

●発売元:円谷プロダクション 販売元:東宝
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