• キネマ旬報WEB トップ
  • 特集記事一覧
  • 知られざるアクション映画の宝庫、カザフスタンから届いたド迫力のスカイアクション! ロシア製戦闘機〈スホーイ〉空中戦に絶句!

知られざるアクション映画の宝庫、カザフスタンから届いたド迫力のスカイアクション! ロシア製戦闘機〈スホーイ〉空中戦に絶句!

カザフスタンを舞台に、優秀な情報部員の兄と破天荒な空軍のパイロットの弟が、祖国を守るために凶悪なテロ組織に挑む姿を描いた本格スカイアクション「タイム・オブ・ヒーローズ」が、3月14日より全国のゲオからレンタル開始される。(※セルは4月28日)

カザフスタン・アクション映画がいま、熱い!

中央アジア、中国やモンゴルの西隣に位置するカザフスタン共和国については、その国名から映画を想像するのを難しく感じる人も多いだろう。

だが、かつてソビエト連邦の構成共和国だった同国には独ソ戦開始後モスクワから映画撮影所が疎開し、エイゼンシュタイン監督の「イワン雷帝」(第一部:1944・第二部:1946)をはじめ数多くのソ連映画が制作され、映画人も育成された。2008年の東京国際映画祭では、カザフスタン出身の監督セルゲイ・ドヴォルツェヴォイの「トルパン」がコンペティション部門のグランプリに輝いている。
 
ただしカザフ映画は芸術映画ばかりではない。大衆に支持され、世界にセールスできるエンタメ作品も数多く、2011年のクライム・アクション「狼の追撃」(監督アカン・サタイェフ)や2020年の国軍新兵物語「カザフスタン・ソルジャーズ」(監督アスカル・ウザバエフ)などは日本でDVDが発売されている。それらを観ればカザフ映画のアクション演出の高いレベルを思い知るだろう。

「タイム・オブ・ヒーローズ」はそんなカザフスタン映画界がハリウッド超大作「トップガン マーヴェリック」に挑んだとも思えるド迫力のスカイアクション映画だ。

ロシア製戦闘機スホーイによる壮絶空中線は必見!

カザフスタン軍特殊部隊のエリート、スルタンはテロ組織の破壊工作阻止命令を受け、国家保安省の工作員ダルメンと共に隠密捜査を始める。彼の弟ベグザトは亡き父と同じ戦闘機パイロットを志願し軍に入隊、操縦技術は優秀だが破天荒な性格のために飛行訓練でトラブルを起こし軍から停職を命じられる。弟の失態を苦々しく思うスルタンは彼を責め、ふたりの関係は険悪になる。

やがてスルタンはテロ計画の全貌を知り、特殊部隊を率い闘うが、テロリストは防空軍の戦闘機を奪って発進、カザフの首都アスタナは壊滅の危機に陥る。首都を救うため謹慎中のベグザトは戦闘機に乗り込み追撃を試みる。はたしてカザフは空爆テロを免れるか。そして兄弟は絆を取り戻せるのか。緊迫のドラマが展開する。

 
カザフスタン政府の協力を得て製作されたこの映画は、同国防空軍が所有する本物の戦闘機を動かし撮影された。機種はスホーイSu-27型とSu-30SM型。ロシア製のスホーイ戦闘機は自衛隊や米軍と無縁の機種だけに実機を見られる機会は少ない。本作ではそれらが自在に動き、飛び回る姿を目にできる。実物のスホーイ戦闘機を存分に描写したというだけで、本作はアメリカ海軍を舞台にし、ボーイングF/A18E/Fスーパーホーネットが主役の「トップガン マーヴェリック」に匹敵するといえよう。クライマックス、テロリストに奪われ首都攻撃に向かう主力戦闘機Su-27をパイロット訓練機として使用されている複座式Su-30SMが追撃する。訓練機だけに搭載された火器は少ない。ベグザトがどのようにテロリストの戦闘機を打ち負かすか、その驚くべきトリックが本作をアクションだけではない、家族の絆を意識させる深い内容にしている。また、作品の中盤にはテロリストとの銃撃戦シーンもたっぷり盛り込まれ、ディテールの正確な描写は銃器マニアに垂涎も的だろう。

 

「超大作戦闘機アクション」をカザフの国情を通して見る

もうひとつの視点は映画からカザフの国情を知る面白さにある。

ユーラシア大陸の中央部、ヨーロッパとアジアの境界に位置するカザフスタンは古代のモンゴル帝国支配、中世のイスラム化、近世以降のロシア統治、ソ連中央政府による強制移住、入植政策など様々な経緯によってカザフ人(アジア系)、ウズベク人(トルコ系)、ロシア人、ウクライナ人など民族のるつぼである。本作の主演俳優、スルタンを演じるダニアル・アルシノフやベグザットを演じるサヌルジャン・スレイマンはアジア系の面立ちで、そこだけで見るなら中国や韓国の作品にも見える。しかし軍上層部や同僚にはスラブ系もおり、ベグザトのガールフレンドはロシア系美女だ。この多くのルーツが入り混じった国家性はカザフスタンに対する興味をより深いものにする。

 

また、カスピ海周辺などに潤沢な油田を抱えるカザフスタンはオイルマネーによる好況に湧いており、政府が支援し歴史超大作「ダイダロス 希望の大地」(2012)や「女王トミュリス 史上最強の戦士」(2019)などが製作。本作も徴兵制啓発の国策映画として企画された面があり、軍に入隊した主人公が美人の女性にモテる設定は、そうした啓発目的に由来するものといえよう。これは徴兵制度のある国、中国、韓国、ロシア、トルコなどの戦争映画に共通の傾向だ。入隊している間に恋人に去られては、若者は誰も徴兵に応じないだろう。
 
ちなみにカザフスタンはロシアを中心とした軍事同盟CSTOの加盟国だが、プーチンのウクライナ侵攻に対し大統領が否定的なメッセージを発している。カザフスタンにもソ連時代に移住したウクライナ人がおり、プーチンに対する反発やがロシア人の住む地域への侵略の可能性がゼロではないからだ。単純な親ロシア国ではない点に、同国が軍事に注力する理由がある。こうした要素を念頭に置きつつ本作を観ることで、激しいスカイアクションに隠された複雑な背景が見えてきて、本作がよりエキサイティングな内容になるはずだ。

文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社

 


『タイム・オブ・ヒーローズ』

●3月14日(火)ゲオ先行レンタル開始

●4月日28日(金)DVDリリース
・税込価格:4,400円
・特典映像:予告編

・2022年/カザフスタン/101分
・監督:セリクボル・ウテプベルゲノフ
・出演:ダニアル・アルシノフ、サヌルジャン・スレイマン、ダステン・シャキロフ、ザリーナ・ハジメトワ
・発売・販売元:プルーク(セル 発売元:プルーク 販売元:アメイジングD.C.)
© State Center For Support of National Cinema NPJSC, 2021