本の導く世代と人種を超えた交流が、未来への一ページに

イタリア中部、豊かな自然の中に石造りの街を擁するチヴィテッラ・デル・トロント。始まりは、老店主リベロの古書店にひとりの少年が現れたことだ。彼の名はエシエン、アフリカの中でも貧しいブルキナファソからの移民だという。『ミッキーマウス』『ピノッキオの冒険』『イソップ物語』『星の王子さま』『白鯨』……店主に借りた本を、世界を、澄んだ瞳はまっすぐ吸収していく。体調が不安なリベロも少年との交流に心和ませる。

店を訪れるのはエシエンだけではない。隣のカフェで働く粋な青年ニコラ、彼が心を寄せるキアラ、移民労働者、初版本の収集家、教授、神父、さらにSM愛好家やネオナチ風の男まで。本は人を選ばず、本屋は誰にも門戸を閉ざしはしないのだ。

 

そしてもうひとつ、たまたまリベロのもとに舞い込んだ一冊の古い日記。書き手は家政婦の若い女性らしい。職探しに苦労する恋人との悩める日々に続き、こう記されていた。「1957年7月4日——いよいよ明日、アメリカに出発。希望に賭けた。未来を探しにいく」。遠い時代、遠い世界。おそらくリベロはまだ少年だったはず。見捨てられ、忘れられた一冊から想像が羽ばたく。かつてあった人生を思い、時空を超えた共鳴を投げかけるリベロおよび私たちは、そのとき新たな物語の一部となっている。

老店主が少年に最後に「贈る」一冊は何か、ぜひ見届けてほしい。それは、ユニセフ・イタリアと共同で製作された映画にふさわしい。可能性の扉を開きながら(いずれは上段にある「発禁本」の真価も咀嚼しながら)成長していく少年には、本の魔力に毒されてページを繰るのをためらう瞬間も訪れるかもしれない。そんなときでも価値が揺らぐことのない、絶対的な一冊が待っている。

 

文=広岡歩 制作=キネマ旬報社
(キネマ旬報2023年3月上旬号より転載)

 

 

 

「丘の上の本屋さん」

【あらすじ】
丘陵に広がる村の小さな古書店。本をこよなく愛する店主のリベロはある日、店の外で本を眺める少年に声を掛ける。本を買うお金はないけれど、好奇心旺盛な彼が気に入って、コミックから小説、専門書まで次々と貸し出してやる。読み終えて返却に訪れる少年は素直な感想を話し、リベロが語る読書の素晴らしさを傾聴。二人は絆を育んでいく。

【STAFF & CAST】
監督・脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディディー・ローレンツ・チュンブほか

配給:ミモザフィルムズ
イタリア/2021年/区分G

3月3日(金)より全国順次公開

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