西島秀俊主演!ケイパームービーの映画史に名を連ねる傑作「グッバイ・クルエル・ワールド」

映画の制作も興行も規制を被り、今も余波の続く新型コロナ禍のもとで、大森立嗣監督「グッバイ・クルエル・ワールド」は製作・劇場公開された。大森監督初の “エキサイティング&ポップな銃撃戦クライム・エンタテインメント” 、素性も知らぬ五人が一夜限りの強盗団を組み、反社勢力の資金強奪を成し遂げそれぞれの生き方に還ろうとする。この物語の中ではコロナ禍がない。とはいえ3月3日にリリースされたBlu-rayの映像特典には、21年中の撮影メイキングに併せ、劇場で鑑賞をと呼びかける舞台挨拶等の各種イベントも収録され、このこと自体がコロナ禍社会におけるある種の意味と意義を抱えてしまうことに感じ入る。

時代の中で斜に構えず何かを信じどこかに向かうのがいい

かつて大森監督は「時代の中で斜に構えず何かを信じどこかに向かうのがいい、それがこれからどう生きていくかという問題解決の財産となる、3・11があってもなくても、そんなことをずっと描いてきた」と語った。大森立嗣作品はいつも、その世界を生きづらい人物が、何かに抗い、どこかへ向かって歩み、あるいは逃げ通そうとする姿を、特異な社会状況下に限定しないひとつの普遍として提示してきたのだ。この「グッバイ・クルエル・ワールド」では、追われる側に転じた五人の “以後の” 生き方が追求される。

クルエル(残酷な)世界をぶっ壊せるのか、ただ狂える世界から去るのみか

宿泊業で普通に生きたい(監督同世代の西島秀俊演ずる)元ヤクザや、全共闘世代で零落の元県知事秘書(演ずる三浦友和は本作などで第96回キネマ旬報ベスト・テン 助演男優賞を受賞)など、世代も出自も異なる五人(と犯行誘導の青年一人)それぞれの事件後日常の生きづらさを追跡劇の中で示すのが本作の主眼だ。追う側となるヤクザ子飼いの刑事を含めた誰もがやりがい搾取に遭い使い捨てにされた者であり、その被虐者同士がまた離反し生き残りへの闘いに参ずる。

ポップな強盗場面からしてタランティーノ映画の変奏曲かと思わせるが、そもそも50年代のケイパー[強盗団映画]勃興以来、強奪後の離反と策謀はケイパーに普遍の定型であった。深作欣二や石井輝男も和製ケイパーを多作、彼らを敬愛するタランティーノがケイパー定型を刷新し映画史に名を上げたのである。深作は「いつかギラギラする日」(92)で呼応、続き石井隆が「GONIN」(95)を産むが、「グッバイ・クルエル・ワールド」は実のところバブル崩壊を背景にした「GONIN」の刷新に挑むことでケイパー映画史に連なろうとしている。

バブルや3・11やコロナ禍でなくとも押し寄せてくる普遍的な生きづらさ、これに反逆し逃走する虐げられた者たちの闘い、それはクルエル(残酷な)世界をぶっ壊せるのか、ただ狂える世界から去るのみか。Blu-ray・DVD追跡でこの問いかけを思索することにも、コロナ禍社会を生き抜くための意味と意義がある。

文=山下慧 制作=キネマ旬報社

 

「グッバイ・クルエル・ワールド」

●3月3日(金)Blu-ray&DVDリリース
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,500円(税込)
【映像特典】
・メイキング
・イベント集(公開記念舞台挨拶、大ヒット祈願&トークイベント、完成披露舞台挨拶)

●DVD:4,400円(税込)
【映像特典】
・メイキング

●2022年/日本/本編127分
●出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和
●監督:大森立嗣/脚本:高田亮

●発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会