迷える現代人よ、このドラマを見よ! ホームコメディの装いに実は人生の至言がズラリ

知る人ぞ知る漫画家・伊藤理佐作品への愛あふれるスタッフの情熱と野心

2022年1月期に放送された『おいハンサム!!』という連続ドラマをご存じだろうか? 父(吉田鋼太郎)、母(MEGUMI)、三姉妹の娘(木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈)の一家を中心とした家族コメディなのだが、ここまでの情報で頭に思い浮かべたであろうことは、作品を観ればきっと覆される。

年頃の三姉妹という設定にこのタイトル。「ははん……頑固オヤジと娘のイケメンな恋人がバトルを繰り広げたのち、結婚式で大団円ってパターン?」と、うっすら思わなかっただろうか? 違うんだな~、コレが。「ん? こりゃ一筋縄ではいかないドラマだぞ?」という感覚は、原作が伊藤理佐の漫画であるというのが大前提としてある。見慣れた日常を素朴なタッチで共感性高く描きながら、物事の真理をズバッと突く伊藤の漫画が、本作で初めて実写化された。それも、「おいピータン!!」&「おいおいピータン!!」を中核に、伊藤の作品計5作からキャラクターやエピソードを抽出してリミックスし、全8話の新しい物語へと編み上げたという凝り具合。

こんな、手間暇かけまくった原作愛にあふれる試みに挑んだのが、『きらきらひかる』『ランチの女王』『闇金ウシジマくん』など伝説のテレビドラマを多く手掛けた山口雅俊で、プロデュースから脚本・演出まで一手に担っている。テッパンの原作×敏腕スタッフ×ピタッとハマり役のキャストという三位一体なこのドラマは当然のクオリティへと到達し、レビューサービス「Filmarks」の2022年上半期国内ドラマの満足度ランキングで№1、「東京ドラマアウォード2022」連続ドラマ部門優秀賞など各賞に輝いた。ちなみに「東京ドラマアウォード」で共に優秀賞に選ばれた6作品には、『カムカムエヴリバディ』『ミステリと言う勿れ』の名前も。これらの要素は、本作が品質保証な見逃せないドラマである証拠として十分ではないだろうか。

さらっと見過ごせないシーンが続出、リピート向きの噛み応え

その『おいハンサム!!』のディレクターズカット版が、12月16日(金)にBlu-ray&DVDでリリース。本作未体験の人にこのタイミングを強く勧めたいのは、本放送の時から、思わずリピート視聴してしまう人続出の作品であったから。また「ずっと手元に置いて何度も見返したい」という感想も根強かった。とにかく「気になるクセになる」「何か引っ掛かる」「何度も噛みしめたい」箇所が全編に散りばめられているのだ。

「気になるクセになる」の要素としてはサブキャラクターの面白さを挙げたい。個人的に大好物なのは三女・美香の同僚・シイナさん(野波麻帆)。いかにも漫画っぽいシルエットのセクシーダイナマイトな38歳独身で(すごくいい大学を出ているらしい)死語連発のお局OLではあるのだが、誰にも嫌われない癒し系。ワンポイントでの登場ながら、生きる上での反面教師として(?)毎話大きなインパクトを与えるご近所さん・ミチル(藤田朋子)の味も捨てがたい。サブではないが、そのミチルを毎度華麗なスルースキルでかわす母・千鶴の独特のリズムやどっしりとした存在感も、回を重ねるほどクセになる。

さらっと見過ごせない「何か引っ掛かる」シーンの多さがまた、リピートを誘発する。筆者でいえば、飲食店のシーンでまだ少し残った状態の皿を店員が片付けようとするのを、源太郎らが「まだいいです」と断るシーンがほぼ全話で差し込まれていたのがずっと気になっている。個人的なあるあるで共感もするし、「この流れならこういう意味があるのか?」と考えもするが、答えは出ないしたぶん正解もない。

「何度も噛みしめたい」のは、なんといっても源太郎の娘たちへの“演説”だ。たとえば、冷蔵庫に残った7センチのネギという取るに足らないモチーフが、「ぴったりにとらわれるな。誰にとっても必ず人生の途中で終わりが来る。やり残してこその人生だ!」という壮大な主張へと移行する。シェイクスピア俳優・吉田鋼太郎の面目躍如な説得力しかない芝居も相まって、一言一言が沁みてくる。もうひとつ、筆者とっておきのシーンを紹介したい。源太郎と作品のキーパーソン・大森(浜野謙太)らが食事をする、第1話の蕎麦屋「あみや」でのシーン。大したセリフもストーリーの進展もなくありふれた光景が延々と映し出され、おばあちゃん(梅沢昌代)のかいがいしい働きぶりに焦点が当たる。陽だまりのような笑みをたたえて、常に同じ言葉と動きで淡々と接客をこなすその姿。真っ当な生き方の手本を見せられたようで、なぜか異様に感動してしまった。これは他のドラマとは違うと確信して最後まで見続けようと決めたシーンであり、この先の人生でブレそうになるたびに見返す予感がある。筆者にとっては「あみや」だったが、観る人それぞれで異なるそんなシーンがきっとあるはず。ぜひ見つけてほしい。

ビジュアルコメンタリーで明かされる驚きの裏話や意外な本音

加えて、Blu-ray&DVDには特典が盛りだくさん。「ハプニング映像集~撮影の様子ちょこっとお見せします~」「祝・撮影終了!キャストによるクランクアップコメント」からはキャストの素の表情や現場の空気が感じ取れるし、「伊藤家キャスト蔵出しインタビュー」はクランクイン前の収録とあって、全話視聴後だと少し異なる印象もあり興味深い。特にオススメなのは吉田鋼太郎と山口雅俊が第1話・第2話を見ながら語り合うビジュアルコメンタリーのダイジェスト番組。藤原竜也を介した両者の出会いから、吉田曰く「ややこしい、めんどくさい人」な山口の驚きの演出方法、先述の「あみや」シーンの裏話も語られる。「録り直したいシーンはあるか?」の問いに、「全部心残りっちゃあ心残り」と吉田。もちろん後ろ向きな意味ではなく、視聴者と同様にキャストにとっても正解がなく噛み応えのある作品であったことがうかがえる発言だった。

ちなみに、初回限定で「おいハンサム!!なエコバッグ」が封入される。“食”も大きな柱となっている本作。このバッグ持参で馴染みのスーパーに行けば、日々気取らぬ家庭料理(でも本当に美味しそう!)を淡々と提供し続ける母・千鶴の気分になれる……かも。そういえば、「料理には2種類ある。相手のことを考えた料理か、考えていない料理か」なんて食にまつわる至言もあったなあ、などと、この稀有なドラマの魅力が止めどなく思い出されてしまうのでこのへんで。

文=武田吏都 制作=キネマ旬報社

 

『おいハンサム!!〈ディレクターズカット版〉』

●12月16日(金)Blu-ray BOX&DVD BOXリリース(全8話)※レンタル同日リリース
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray BOX:23,980円(税込)、DVD BOX:18,480円(税込)
【仕様特典】
・三方背ケース
【封入特典】
・伊藤家のステッカー(2枚組)
・おいハンサム!!なエコバッグ(初回限定特典)
※エコバッグサイズ:400×400×100(mm)
【映像特典】
・ハプニング映像集~撮影の様子ちょこっとお見せします~
・祝・撮影終了!キャストによるクランクアップコメント
・伊藤家キャスト蔵出しインタビュー
・「おいハンサム!!」〈ディレクターズカット版〉吉田鋼太郎ビジュアルコメンタリー(第1話・第2話ダイジェスト映像)

●2022年/日本
●出演:吉田鋼太郎、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈、須藤蓮、太田莉菜、桐山漣(※)、山中聡、野波麻帆、高杉真宙、MEGUMI、浜野謙太 ※桐山漣の“漣”のしんにょうの点は正しくはひとつ
●原作:伊藤理佐『おいピータン‼』『おいおいピータン‼』(講談社「Kiss」連載)、『渡る世間はオヤジばかり』(講談社KissKC 所載)、『チューネン娘。』(祥伝社フィールコミックス)、『あさって朝子さん』(マガジンハウス)
●企画:市野直親(東海テレビ)
●プロデューサー:山口雅俊(ヒント)、遠山圭介(東海テレビ)、塚田洋子(日本映画放送)、藤井理子(日本映画放送)、森正文(ヒント)
●エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之(日本映画放送)
●脚本・演出:山口雅俊
●製作:東海テレビ 日本映画放送
●発売元:日本映画放送/東海テレビ放送社 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©東海テレビ/日本映画放送

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