映画「はい、泳げません」―心に傷を抱えた男の記憶と再生の物語

髙橋秀実の同名エッセイを映画化した「はい、泳げません」。NHK大河ドラマ「八重の桜」で夫婦役を演じた長谷川博己と綾瀬はるかが、映画で初共演を果たした本作のBD&DVDが12月7日(水)にリリースされる。

“泳げない男”と“泳ぐことしかできない女”

いつも屁理屈ばかりこねている哲学教授の小鳥遊雄司(長谷川)は、水に顔をつけることすらできないカナヅチ。苦手なものから目を背けて生きてきた彼は、一念発起して薄原静香(綾瀬)がコーチを務める水泳教室の門を叩く。かくして小鳥遊の一進一退の日々が始まるのだが…。

“泳がない理由”を並べ、現実から逃げてばかりいる小鳥遊。自身も心に傷を抱えながらも小鳥遊を叱咤激励し、未来へ導く静香コーチ。2人を中心に描かれる本作は、そのコミカルなタイトルから想像するような「泳げない男が奮闘する映画」という単純なものではない。決して消し去ることができない悲しい過去やトラウマ。死ぬこと、生きること。全てを見届けた時、映画の印象は鑑賞前と後でガラッと変わっていることだろう。

監督を務めたのは、映画「舟を編む」で第37回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した渡辺謙作。原作を大胆にアレンジした脚本も兼任している。小鳥遊の元妻・美弥子に麻生久美子、恋人でシングルマザーの奈美恵に阿部純子、大学の先輩・鴨下教授に小林薫と、脇を固める役者陣も魅力的な顔ぶれが揃った。

水泳を通して「人はなぜ生きるのか?」を問いかける

「別にそんなに無理して泳がなくてもいいのに…」と思って観ていると、物語の中盤で小鳥遊の意外な過去が明かされる。泳げなかったばかりに亡くした小さな命。絶望しているのに流れなかった自分の涙。自分を責め続け、生き方すらも見失ってしまった小鳥遊の姿は、まるで水の中でうまく息ができずもがき苦しんでいるように見える。

そんな彼に手を差し伸べるのが、静香コーチだ。「前にも後ろにも行けないなら、上に進むしかないでしょう!」――彼女のまっすぐな言葉は、いつだって小鳥遊の心にストレートに響いてくる。恐怖から逃げるのではなく、向き合うこと。自分の中に受け入れ、流れに身を任せること。静香コーチは小鳥遊に泳ぎ方を教えるが、いつしかそのアドバイスは“生き方”とも絶妙にリンクしていることに気づく。

“リハビリ”とは、ラテン語で「再び自分らしく生きること」を意味するという。もしも絶望の淵に立たされた時、明るい未来が見えなくなった時は、この作品がきっとあなたの“心のリハビリ”に力を貸してくれるはずだ。

こだわりの水中撮影が目を引くメイキング映像はたっぷり50分以上!

小鳥遊のキャラクターを「ずっと思考している頭のいい知性的な人」と分析する長谷川だが、実は泳ぎは得意。そのため、綾瀬についていた水泳コーチが指導する内容と真逆のことを試み、“泳ぎが下手な人”の演技を作り上げていったという。

注目すべきは、泳ぐことから逃げ、水族館でさぼっていた小鳥遊を、静香コーチが電話越しに励ますシーン。本編では、それぞれ水族館と水泳教室にいる2人を画面の分割で見せているが、会話の途中で静香コーチの手がふいに小鳥遊の腕を掴む。「あれ、どうやって撮っているんだろう?」と思うが、実は合成ではなく背景を変えて2人共同じ場所で撮影していたことが判明。監督のこだわりが詰まった時別なシーンだ。

また、監督に「クロールのみでいい」と言われ、クロールばかりを猛特訓していた綾瀬。しかし、撮影の途中で4種目に変更され、綾瀬は急遽バタフライなども練習したという。本編では残念ながらカットされてしまったようだが、そんな綾瀬の涙ぐましい練習風景も垣間見ることができる。

その他、イベント映像やPR映像集も収録。本編を鑑賞した後は、ぜひ特典映像で彼らの“泳ぎ方”を覗いてみてほしい。

文=原真利子 制作=キネマ旬報社

 

「はい、泳げません」

●12月7日(水)Blu-ray&DVDリリース(DVDレンタル同時)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

 

●豪華版Blu-ray:7,480円(税込)
【特典映像】
・メイキング映像
・イベント映像集
・PR映像集
【封入特典】
・カラーブックレット
【先着購入者特典】
・オリジナルブロマイド(2枚組) 

●通常版 DVD:4,180円(税込)
【先着購入者特典】
・オリジナルブロマイド(2枚組)

 

●2022年/日本/本編113分
●監督・脚本:渡辺謙作
●原作:髙橋秀実『はい、泳げません』(新潮文庫刊)
●出演:長谷川博己 綾瀬はるか
伊佐山ひろ子 広岡由里子 占部房子 上原奈美/小林薫/阿部純子/麻生久美子
●発売・販売元:VAP
©2022「はい、泳げません」製作委員会

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