ホラーにアクションに社会派⁉ 娯楽の宝石箱のような映画「ダンシング・マリー」EXILE NAOTO×SABU

怖いんだけど笑えて、しかも社会派――。当代一流の映像の魔術師、SABU監督がEXLIE NAOTOを主役に据えて手がけた映画「DANCING MARY ダンシング・マリー」は、あらゆるエンターテインメントの要素がちりばめられたまるで宝石箱のような作品だ。2022年12月7日にブルーレイ&DVDがリリースされ、デジタル配信もスタートしたが、ブルーレイには撮影の日々に密着したメイキングやとっておきの秘話も飛び出した上映会の舞台挨拶など中身の濃い特典映像も付いていて、SABU監督が施した魔法の奥の奥までのぞき見ることができる。

ダンスホールに取りついた霊に立ち向かう市役所職員

舞台は北九州のとある都市。やる気のない市役所職員の研二(EXLIE NAOTO)は、郊外に建つダンスホールの解体現場の担当を任される。ダンスホールは再開発事業のため取り壊しが決まっているものの、かつてこのホールの踊り子だったマリー(坂東希)の霊が取りついていて、工事関係者の間で災難が続出しているというのだ。研二は、幽霊が見えるという女子高校生の雪子(山田愛奈)を伴い、勇気を振り絞って廃墟と化したダンスホールに足を踏み入れる。

雪子は自分だけでなく、彼女が手を触れた人にも幽霊を見せることができる。全く霊感のない研二も、こうしてマリーをはじめとしていろんな霊を目にしてしまうのだが、その描写がめちゃめちゃ怖い。雪子と手をつなぐとカラーの映像がモノクロームになり、ぼーっと幽霊の姿が浮かび上がる。あっちにもこっちにも霊が潜んでいて、いつの間にか研二の傍にぴたっと立っていたりする場面もあって、いや、もう身の毛もよだつ瞬間だ。

このホラーの要素に加えて、アクションを伴ったやくざ映画や任侠映画の路線も巧みに組み込んでいる。

市役所の上司らは難局打開のため、建設会社を装ったやくざの事務所に汚れ仕事を依頼。一方、マリーの霊がダンスホールに取りついているのは、恋人のジョニー(吉村界人)をいつまでも待っているからと知った研二たちは、ジョニーの居場所を探して幽霊たちに聞き込むんだけど、どうやらジョニーは台湾でやくざに捉えられていることが分かる。研二たちは千人斬りの異名を持つ伝説のやくざ、アニキ(石橋凌)の幽霊に助っ人を頼み、台湾へと旅立つ。

爆笑の渦の中から浮き出てくる任侠映画へのオマージュ

ここから映画は昭和の任侠映画へのオマージュを込めつつ、コメディーの様相を呈してくる。何しろアニキは奸計に陥って、刀でめった刺しにされて殺されたという設定なのだ。全身に大小を刺し込まれたまま青白い死に顔で旅客機に乗って台湾に向かうという構図は、まさに爆笑もの。しかも初めての飛行機、こわもてのアニキが高所恐怖症でがたがた震えているんだからたまらない。

と同時に、生前のアニキの義理人情も回想シーンとして再現されるんだけど、これがまた幽霊とは打って変わってかっこいいんだよね。若い時分からやくざ映画で鳴らした石橋だけに、殺陣の振りも堂に入っていてほれぼれする。障子越しにシルエットで見せる立ち回りなんて、SABU監督の任侠映画への敬意がひしひしと伝わってきて胸に響いた。

アクションなら映画初主演となるNAOTOも負けてはいない。どこか日和見主義の頼りない公務員として登場する研二だが、雪子やアニキらと交わるうちに徐々に自我に目覚めていく。特に自殺を図った雪子が担ぎ込まれた病院で出会った末期がんのおばあさん2人に言われた「人にはそれぞれ役目があってこの世に生まれてきている」という言葉がキーワードになって、研二にしかできない役目を果たそうとやくざ連中に立ち向かう。

三代目 J SOUL BROTHERSのリーダーとして知られるNAOTOは、ダンスで培った切れのあるアクションを披露。殴られても蹴られても果敢に相手に食い下がっていくど根性ぶりは圧巻のパフォーマンスだ。実直で誠実そうな役柄を反映させた折り目正しいせりふ回しも情感豊かに表現していて、役者としての素質も十二分に兼ね備えていることを証明してみせた。

世界に届いた「人は誰にでも役目がある」のメッセージ

演者の個性を引き出し、恐怖と笑いが入り交じる破天荒な映像世界を構築したSABU監督は、「ワールド・アパートメント・ホラー」(1991年、大友克洋監督)の主演など俳優として活躍した後、1996年に「弾丸ランナー」で衝撃の監督デビュー。その後も「MONDAY」(2000年)、「幸福の鐘」(2003年)、「MR.LONG/ミスター・ロン」(2017年)とさまざまなジャンルの映画に挑戦し続けてきた。多様な作品群の根底に流れるのは、とにかく面白い映画を届けたいという思いで一貫している。

筆者は「弾丸ランナー」以来、何度かSABU監督にインタビュー取材をしたが、ぼそぼそっとした語り口ながらも「失うものは何もない。がんがん行きますよ」と、常に前向きの発言が印象に残っている。

そんなSABU監督の作品が、NAOTOは以前から大好きだった。特に第2作の「ポストマン・ブルース」(1997年)がお気に入りで、最初の顔合わせでそのことをNAOTOに言われて「すごいいいやつ」と思ったというエピソードが、ブルーレイの特典映像にある完成披露上映会の舞台挨拶でSABU監督の口から語られている。

対するNAOTOは、初主演作がずっと見ていたSABU監督の作品なんて夢のような出来事で、「若いころの自分に自慢したい」と同じ舞台挨拶で告白。ほかにも出演者やSABU監督のこの作品に懸ける思い、撮影中の裏話などをたっぷりと聞くことができる。また1カ月に及ぶロケに密着したメイキング映像には、幽霊の見せ方やアクションの段取りなど撮影にまつわる創意工夫が満載で、さらにこの作品へのいとおしさが募ってくるに違いない。

「人は誰にも役目があって、今を大切に生きれば未来を変えられる」というメッセージは世界にも届き、ポルトガルのポルト国際映画祭(ファンタスポルト)で審査員特別賞を受賞したほか、ブラジルのポルトアレグレ国際ファンタスティック映画祭(ファンタスポア)やイタリアのアジアン映画祭など、数々の映画祭で賞に輝いている。世界も驚愕したSABU監督のイリュージョンを見逃すことのなきように。

文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社

 

「DANCING MARY ダンシング・マリー」
●12月7日(水)Blu-ray&DVD&デジタル配信リリース(レンタルDVD同時リリース)
▶Blu-ray&DVD&デジタル配信の詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,170円(税込)
【特典映像】(100分)
・予告編集
・メイキング映像
・舞台 挨拶 映像
【封入特典】
・リーフレット(8ページ)
【商品仕様】
・アウターケース

●DVD:4,180円(税込)
【映像特典】(2分)
・予告編集

●2021年/日本/本編105分
●出演:EXILE NAOTO(EXILE/三代目 J SOUL BROTHERS)、山田愛奈、坂東 希、吉村界人、諏訪太朗、武発史郎、瀬口寛之、川島潤哉、カトウシンスケ、小松勇司、山本龍二、木村圭作、國本鍾建、樋渡真司、竹内晶子、三谷悦代、奥瀬 繁、石橋 凌
●監督・脚本・編集:SABU
●エグゼクティブプロデューサー:EXILE HIRO
●「DANCING MARY」製作委員会:LDH JAPAN ローソン
●制作プロダクション:ディープサイド
●製作:LDH JAPAN
●発売元:株式会社 LDH JAPAN 販売元:ポニーキャニオン
©2021 映画「DANCING MARY」製作委員会

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