南北が命のために団結。90年代の実話に基づく衝撃のヒューマン・アクション―映画「モガディシュ」

手作り感あふれるデビュー作「ダイ・バッド〜死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか〜」(00)で世界を驚かしてから20余年。リズミカルで見応えのあるアクションと人間味あふれるキャラクターたちが活躍する映画を作り続けてきたリュ・スンワン監督の最新作「モガディシュ 脱出までの 14 日間」のBlu-ray&DVDが12月2日にリリースされた。本作は彼の集大成とも言える作品だ。

アクション映画の名手リュ・スンワン監督の集大成

舞台は90年12月末のアフリカ、ソマリア。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と競い合いながら国連加盟を目指していた大韓民国(韓国)の大使ハン・シンソンは投票を有利に進める交渉をするため、大統領との面会を取り付けるが、北朝鮮のベテラン大使リム・ヨンスに邪魔されてしまう。その後、ホテルで別の高官に接触していたハン大使はリム大使と鉢合わせ。緊張感が走る中、彼らが滞在する首都モガディシュでは政府と対立する勢力による反乱が勢いを増していた。

90年末から91年にかけて起きた実際の事件を映画化した今作。故国から遠く離れたアフリカのソマリアで内戦が激化したことによって孤立した南北の大使館員たちが、お互いの命を守るために団結し突破口を探していく。見どころは、激しく対立していた南北の人々が、緊迫した状況の中で徐々に信頼を深めていく人間ドラマ。リュ・スンワン監督も「彼ら彼女らは、お互いに相手を敵対視するようにとの教育を受けてきているにもかかわらず、危険な状態にある外国で、通訳を使わずにコミュニケーションをとることができる唯一の存在でした。そんなアイロニーが私を刺激し、たくさんの問いを投げかけてきました」と、この物語に引き込まれた理由を語っている。特に、子どもも混じった北朝鮮大使館の人々と、彼らを大使館内に受け入れた韓国の人々とが囲む食卓のシーンは、俳優たちの好演もあって、しみじみと胸に迫ってくる。

映画の後半には、リュ・スンワン監督らしいダイナミックなカーチェイスシーンも登場するが、関係者たちが存命であるため「観客を刺激するような英雄譚にしたり、悲劇的な状況を第三者の視点から見てスペクタクルとして消化してしまったり」しないように、警戒しながら制作したとのこと。とはいうものの、「『あの状況に置かれた時、私なら、どうするか?』と、観客に絶え間なく考えさせること」にフォーカスを置いたという演出により、まるで自分が一緒に車に乗っているようなスリリングな時間を過ごすことができる。

実力派俳優たちが見せる厚みのある演技

遠く離れたモロッコでの撮影に臨んだ実力派俳優たちの共演も見逃せない。韓国の大使ハン・シンソンを演じているのは、実在の連続殺人犯をモデルとしたスリラー「チェイサー」(08)で、元刑事を演じて以降、数々のサスペンス映画に出演してきたキム・ユンソク。「1987、ある闘いの真実」(17)などでは狂気を感じさせる演技を見せてきた俳優だが、今作では、どこかとぼけたところがありながら要所でリーダーシップを見せる人物になり切っている。北朝鮮の大使リム・ヨンス役は「世宗大王 星を追う者たち」(19)のホ・ジュノ。数多くの映画やドラマに出演してきた彼は、登場した瞬間に静かなカリスマ性を漂わせる。

外交官らしい臨機応変さと強かさを駆使して危機を脱しようとする南北の大使たちに対し、情報機関である安全企画部出身の参事官カン・テジンは、北朝鮮の人々への不信感を露骨に表し、彼らを亡命させようと画策する。「ザ・キング」(17)のチョ・インソンがかなり強引で短気な人物をエネルギッシュに見せている。さらに、インディペンデント映画を中心にキャリアを積み、「新感染半島 ファイナル・ステージ」(20)、Netflixドラマ「D.P.ー脱走兵追跡官-」など、話題作への出演が続くク・ギョファンが現地にも太いパイプを持つ北朝鮮の参事官テ・ジュンギを演じている。また、双方の間に立ちはだかっていた心の壁を取り除く上で大きな役割を果たす韓国大使の妻キム・ミョンヒには「KCIA 南山の部長たち」(20)のキム・ソジンが扮している。

撮影の裏側に迫る特典映像

DVDに収録された特典映像では、19年11月から20年2月にかけてモロッコで行われた撮影の裏側を知ることができる。同じくソマリア内戦を背景とするハリウッド大作「ブラックホーク・ダウン」(01)のロケ地であることから選ばれたという海辺の街に90年代のモガディシュを再現。モロッコと韓国のスタッフが力を合わせ、韓国映画史上に残る大規模な銃撃戦やカーチェイスのシーンを成功させた。映像の中には監督やキャストからのコメントだけでなく、軍事専門記者で、今作に監修としてかかわったスタッフからの貴重な証言も収録されており、撮影時の様子をより具体的に知ることができる。

各国の諜報員やテロリストがうごめくベルリンを舞台に、窮地に追い込まれた南北諜報員の絆を描くスパイ・アクション「ベルリンファイル」(13)に続き、リュ・スンワン監督が南北をテーマにした作品に挑んだ「モガディシュ 脱出までの 14 日間」。手に汗握る展開と、極限状況の中でも人間としての尊厳を失わなかった人々の物語を楽しんでほしい。

文=佐藤結 制作=キネマ旬報社

 

「モガディシュ 脱出までの 14 日間」

●12月2日(金)Blu-ray&DVDリリース
▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら

●Blu-ray:5,170円(税込) DVD:4,180円(税込)
【映像特典】(約20分)
・メイキング
・スタッフコメンタリー映像
・カーチェイスの裏側
・監督・キャストのグリーティング
・未公開シーン
・キャラクター予告
・オリジナル予告集
・日本版予告
【特典仕様】
・スリーブケース

●2021年/韓国/本編121分
●監督・脚本:リュ・スンワン
●出演:キム・ユンソク(吹替:遠藤純一)、チョ・インソン(吹替:小林親弘)、ホ・ジュノ(吹替:橋本信明)、ク・ギョファン(吹替:白石兼斗)
●発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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