ホリプロの人材育成と変わりゆく芸能プロダクションの役割

  • 2021年06月22日

1960年(昭和35年)に創業し、60年の歴史を誇る株式会社ホリプロ。芸能界に燦然と輝いてきたこの一大企業は、ミュージシャンだった堀威夫さんが音楽プロダクションを興したのが始まりだ。その後、時代に先駆けて音楽出版や著作権ビジネス、映画やドラマ、ミュージカルや演劇の製作・興行へとフィールドを広げていった。

ホリプロ所属のタレントといえば、世代によって思い描くスターは様々だろう。舟木一夫、ザ・スパイダース、和田アキ子、石川さゆり、森昌子、山口百恵、榊原郁恵などの歌手を挙げる人は昭和生まれだろう。平成生まれ以降は、藤原竜也、妻夫木聡、松山ケンイチ、鈴木亮平、池松壮亮、綾瀬はるか、石原さとみなど、俳優の名前を挙げる人が多いかもしれない。

株式会社ホリプロの取締役、津嶋敬介さんは1987年(昭和62年)の入社以来、マネージメント部門と映像事業部門の両翼となってきた。ホリプロのスカウトシステムである『ホリプロタレントスカウトキャラバン』の運営や、現在全国公開中のホリプロ60周年記念映画「NO CALL NO LIFE」など、数々の映画のプロデューサーである。

ホリプロの半分の歴史の証人であり、スターの発掘、育成、プロデュースまでを知り尽くしている津嶋さんは、芸能プロダクションの将来をどのように見据えているのだろうか。俳優やタレント、マネージャー、プロデューサーなど、エンタメ業界を目指す人必読! 映画俳優の訓練や映画をプロデュースする、映画24区代表の三谷一夫さんが本音を聞いた。

津嶋敬介さん(株式会社ホリプロ・取締役)×三谷一夫さん(映画24区・代表)

 

ホリプロのマネージメント哲学

三谷 津嶋さんとは、かれこれ10年になりますね。2012年頃に千駄ヶ谷にあった映画24区のスタジオにふらっといらしたのが、初まりでしたね。

津嶋 そうでしたね。現在、全国公開中の映画「NO CALL NO LIFE」で主演を務めている優希美青が、第37回ホリプロスカウトキャラバンでグランプリを獲った直後でした。俳優として教育したいなと思って、調べたら映画24区というのがあったので、ここでちょっと教えてもらおうと思ったんです。

三谷 『ホリプロタレントスカウトキャラバン』は1976年(昭和51年)にスタートしたホリプロのスター発掘オーディションですが、今年でもう45回目になるんですね。96年のグランプリが深田恭子さん、津嶋さんが実行委員長をされた2000年の審査員特別賞に綾瀬はるかさん、2002年のグランプリに石原さとみさんが選ばれています。

津嶋 これはよく考えられたシステムなんですよ。他に良い方法が見つかったらやめましょうと言ってますが、なかなか見つからない(笑)。

三谷 原石の才能を見つけて、教育をされて、自社企画で世に送り出すシステムは、やはりマネージメント部門と製作部門の両輪を持っているホリプロならではの強みですね。津嶋さんのキャリアは、その二つの部門に絞られるんですね。

津嶋 はい、マネージメント部門と映像事業部門のどちらも担当してきました。1987年(昭和62年)の入社当時はマネージャー希望でしたが、映像事業部に配属されて、アシスタント・ディレクター、アシスタント・プロデューサーを3年やりました。コマーシャルの制作でカチンコを叩いていましたが、もう地べたに這いつくばって働きましたよ(笑)、よく辞めなかったと思います。そして3年目からドラマやバラエティの企画を出したりしてやっと面白くなってきた矢先の1990年(平成2年)に、マネージメント部門へ行けと言われて、結構へこんで異動しました。

三谷 どんな方をマネージメントされたんですか。

津嶋 現場マネージャーとして大石吾朗、比企理恵、大沢逸美、戸田菜穂、鶴見辰吾を担当しました。マネージメント部門は、ずいぶん長かったですね。現場マネージャー、チーフ・マネージャー、そのあと部長を10年やって、合計23年やりました。

三谷 自ら街に出て、スカウトされたりもされたそうですね。

津嶋 やりましたよ。チーフ・マネージャーになってから、優香と佐津川愛美をスカウトしました。ドラマを作って、マネージメントでも役者をやっていると飽きてきて、バラエティ系をやってみたいなと思ったんです。それで優香を池袋でスカウトして、話してみたらバラエティ向きな明るい子だったので、グラビアからバラエティ展開のプロモーション計画を立てました。

三谷 マネージャー経験の長い津嶋さんに伺いたいんですが、マネージメントについて、なにか哲学をお持ちですか。

津嶋 いきなり深い話ですね(笑)。哲学ということでもないですが、マネージャーに向いている人と役者に向いている人というのは、僕はまったく違うと思ってます。タイプとしては両極端だと言ってもいい。自分でマネージメントしながら出演もするという「プレイングマネージャー」みたいな役者さんもいますが、僕は絶対に無理だと思っているんです。

三谷 それはどうしてでしょうか。

津嶋 マネージャーは喜怒哀楽が激しい人は向いていないし、役者は逆に喜怒哀楽が激しい人が向いているからです。わかりやすく言うと、役者は感情の起伏が激しいほうが表現力が豊かでいいのですが、マネージャーは常に冷静でフラットでないといけない。たとえば仕事がないとき、役者はどんどん落ち込みます。そのときにマネージャーも同じように不安になって落ち込んでいたら、もうダメなわけです。そこは大丈夫だと役者を鼓舞して引っ張り上げないといけない。また、役者がすごく売れてくると、どんな役者でも一瞬、天狗になります。自分はすごいと。もちろん役者はそう思ったほうがいい。でもマネージャーまで調子に乗って天狗になると最悪なんです。そこで役者の驕り高ぶりを抑えないといけない。

三谷 津嶋さんは、そういう意味ではマネージャーに向いていたのですか。

津嶋 そうですね。心に秘めたものはありますし、よく笑うし、よく泣きますよ(笑)。でもすごく怒ったりはしないし、少なくとも仕事では表面に出さない。

三谷 最近の若い役者志望の方「自分には感情の起伏がないんです」という子が増えましたけどね。

津嶋 普段は物静かで憑依型だという役者さんもいますけれど、そんなに多くはないですよ。入社して33年間見てきて思うのは、やはり喜怒哀楽が激しい子のほうが売れるし、喜怒哀楽が激しくない子のほうが優秀なマネージャーになります。

三谷 『俳優の教科書』(2017年、フィルムアート社刊)の中で、津嶋さんと対談したとき、10代や20代はマネージャーの言うことを聞く子のほうがいい、でも30代になるとセルフ・マネージメントをできる子がいいと断言されていました。

津嶋 いまもその考えは変わりません。10代や20代の子は自分を過大評価したり、逆に過小評価することがある。不得手なことはやりたくないとか、好きなことはしたいけど嫌なことはしたくないというジャッジを、若いからどうしてもしてしまう。でも、マネージャーは本人のことを考えて俯瞰で見ていますから、辛い仕事でも本人のためになると思うと入れますし、たとえギャラがよくてもマイナスイメージになることは断ります。

三谷 自分より若いマネージャーでも従ったほうがいいんですか。

津嶋 その上にはチーフ・マネージャーもいますからね。でも、30代になると、セルフ・プロデュースができないと残っていかない。自分でもわかってきますよ、この仕事は辛いけど自分が成長するためにやりますと言いますもの。そこで決められない役者もいっぱいいますが、その子たちは残っていかないですね。でももし、そこで自分がジャッジできないのならば、一切の文句を言わずにマネージャーの言うとおりにやるほうがいい。次のステップはこうなると考えられる人に判断を委ねたほうが得策です。

©2021映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

激変するマネージメント事業

三谷 基本的にマネージメントの仕事は、これまで、そんなに変化はなかったと思いますが、コロナによって、今後大きく変わっていきますか。

津嶋 変わっていきますね。まず営業の仕方が変わりました。リモートで営業しないといけないですからね。キャリアのあるマネージャーは知り合いのプロデューサーやディレクターと連絡を取り合ってタレントの動画を送ったりできますが、若いマネージャーは知り合いもいないし、何もできないんです。昨年4月入社の社員は入ったときからこうなので可哀想ですね。現場でやることはもちろん教えていますが、プロモーションやセールスが教えられないですよね。

三谷 昔はプロフィールを持って、テレビのプロデューサーになんとかへばりついて、朝まで飲んで、というようなことがありましたけど、減っていきますよね。

津嶋 まず今はテレビ局に入れないですから(笑)。プロデューサーもリモートワークでいないし。

三谷 そうなってくると、そんな時代の芸能事務所の選び方はどうなりますか。これから事務所に入ろうとする人たちは、どうすればよいのでしょうか。

津嶋 マネージャーというのは、やはりプロデューサーの意味合いがありますから、自分をどう売ってくれるのか、きちんと絵を描いてくれる人を探したほうがいいですね。セールス能力があり、コロナが終息したら一気にプロモーションをしてくれる人です。もちろんこのコロナ禍でも、リモートで営業してくれる人が一番いいです。うちはドラマも映画もいっぱい作っていますが、他所の事務所の人はフロアには来ないですよ。でもメールは来ますよ。優秀なマネージャーは所属のタレントの動画をつくって送ってきます。俳優だって自分で撮って送ってきますからね。

三谷 役者も自分で撮って編集するくらいの技術は必要になってきますよね。セルフ・プロデュースに関連するところとして、ホリプロはSNSの活用にルールがあるんですか。

津嶋 SNSが出始めたころは、マネージャーがチェックしてOKなものをアップするということをやっていましたが、そんなことをしてると遅いし、タレントや役者もやりたくなくなってしまうので、そこはもう信頼して任せるようにしています。インスタグラムもFacebook、TikTok 、Twittertなども自由にやっています。

三谷 ホリプロのタレントさんは、あんまりやっている印象がないですが。

津嶋 やってますよ。綾瀬はるかや石原さとみがやってないから、そう思われるのかな。高畑充希とか竹内涼真とか、何百万人のフォロワーがいますよ。そういうのが得意な人と不得意な人、好きな人も嫌いな人もいますから、任せています。僕自身、インスタもFacebookもやってます。

三谷 オープンすぎるくらい、やってますよね(笑)。

津嶋 やったほうがいいと思いますよ(笑)。あれだけコアターゲットに刺さるものはない。高畑充希が記者会見やテレビでなにか言うとマスには広がりますけど、本当に好きな人に刺さるかと言えば、ちょっとわからない。でも、充希がインスタで言うと、充希が好きな300万人くらいに広まるし、しかも宣伝費は無料ですからね。そのかわり、悪いことも、あっという間に広まりますから、諸刃の剣ですけどね。

©2021映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

芸能プロダクションのお金の話

三谷 ホリプロは東証一部に上場していたので、会計がしっかりとされていますから、踏み込んでお聞きします。芸能プロダクションはあくまで会社ですから、売上を立てないといけないですよね。タレントや俳優にお金の話をどこまでするんですか。たとえば、どこの事務所とは言えませんが、タレントに売上と経費を示して、あなたはこれくらい稼がないと会社にはマイナスだよと徹底して教え込む会社もあります。

津嶋 うちは、方針の話はしますが、お金の話はしませんね。ただ、タレントには言わないけれど、一人一人に売り上げ目標はあります。各マネージャーが毎年、年度はじめに方針や目標、売上金額を決めて、「タレント方針会議」で部長や役員の前でプレゼンテーションをやるんです。2日間缶詰めになって、みんなでじっくり詰めていくんですが、そのときに年間の売上目標を立てますね。

三谷 それは、一年間のホリプロのマネージメント事業総売上ですよね?

津嶋 いえ、個々のタレント単位で決めます。ただ、マネージャーに対しては、目標を設定させますけど、ノルマにはしないんです。ノルマだと、達成できないと、給料を下げたり降格させたりという話になってしまいますよね。そうすると、変な仕事でもギャラが高い仕事を取ってきちゃうんですよ。それはタレントのためにならない。ギャラが安くても、質のいい仕事をしたほうがいいですからね。

三谷 そのバランスは難しいですね。

津嶋 難しいですよ。でも、うちはおかげさまで会社もそこそこ大きくて、タレントも役者もいっぱいいるし、もし仮に一人が働かなくても、他の人が働けばちゃんとみんな食べていけるので、変な仕事はやらなくていい。もちろんマネージャーが売上目標を達成したら、給料は上がるし出世もします。ただマイナス評価はしません。

三谷 マネージャーは、ひとり何人くらい担当するんですか?

津嶋 優秀な人は2年目から独り立ちします。売れている子を持たせたり、ひとりで3、4人持たせますね。でも力量がないと、3年、4年たってもアシスタント・マネージャーだったり、あまり数を持たせなかったりしますね。

三谷 新人タレントは、どれくらいの売上目標なんですか。ある事務所から聞いた話ですが、年間100万を上げるだけでも、けっこう大変だと。

津嶋 新人のギャラは、本当に安いですよ。

三谷 例えば、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」のグランプリの新人の場合、初年度の売上目標はいくらくらいなんですか?

津嶋 スカウトキャラバンは何千万円もかけてやるプロジェクトですが、それを何年もかけて回収していきます。グランプリを獲って鳴り物入りで入ってきた新人はプレッシャーもありますよ。でも最高でも年間300万くらいです。グランプリになった子はあらかじめ仕事を入れてますから、その分のギャラがもうありますけどね。

三谷 タレント一人にかかる経費(原価)というのは、どんなものがあるんですか。

津嶋 本人に払うギャラ、スタイリストやメイクの費用、宣材費、交通費、食費、演技レッスンやダンスレッスンなどの費用などですね。

三谷 マネージャーの給料は?

津嶋 マネージャーの人件費は、全体的に部署の中で。

三谷 販管費みたいなものですね。やはり一部上場されていたので、その辺はかなり細かく決めておられますね。

津嶋 うちは経理がちゃんとしてますので。

三谷 津嶋さんくらいになると、タレントの顔を見たら年間の利益は、これくらいだなと見えるんじゃないですか。

津嶋 まあ、もちろん見えますけど。年度初めに売上目標は立てるんですけど、あんまりお金のことを考えずにやっています。あまりそっちばかりを考えると仕事の選び方を間違えてしまうので。それよりは、いい仕事を取ろうということですね。

©2021映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会

独立問題とエージェント制

 三谷 最近、業界全体でタレントの独立が増えていますね。

津嶋 それは、マネージメントの危機だと思っています。いまYouTubeなど自分の力だけで表現できる場がありますからね。ただ、ダウンタウンの松本人志さんが「自分はお笑いしかしたくない、他の面倒臭いことをしたくないから事務所にいる」と話しているのを聞いたことがありますが、独立したら、事務処理やスケジュール・ギャラ交渉などがあって、これが大変神経を使う作業なんです。自分は芝居しかしたくない役者は、絶対に事務所にいたほうがいいと私は思いますね。

三谷 マネージャーの仕事は、本当に細やかで多岐にわたっていますからね。

津嶋 たとえば、ギャラが10万だとして、そのうちの3万が事務所の取り分とすると、その3万でマネージャーがどれだけの仕事をしているのか、フリーになると思い知りますよ。そして、まず3万取られるという発想がいけない。その3万ですごいことをやっているし、そう思わせないと、僕らの負けです。

三谷 独立の問題は経営課題になっていますか。

津嶋 うちは辞める人がほとんどいないから(笑)。制作側の立場からしますと、キャスティングするとき、事務所があると、やはり安心なんです。フリーの人は、もし現場に来なかったらどうしようとか、撮影から公開までの間にスキャンダルを起こしたらどうしようとか不安があります。リスクヘッジを事務所がしてくれないので、なかなかキャスティングする勇気はないですね。

三谷 特にテレビやCMはスポンサーとの向き合いがありますからね。最近の動きとしては、エージェント契約の考え方も出てきていますが、いかがですか。

津嶋 アメリカや韓国はエージェント契約が主流ですね。しかし、僕たちマネージメント会社はそれを認めると負けなんですね。エージェント契約は役者がクライアントです。エージェントが仕事を持ってきて役者がジャッジする。それで役者がその仕事をやるとなったら、エージェントが手数料をいくらか取るシステムです。すると、エージェントは高い仕事しか持ってこないんですよ。判断基準は質のいい仕事よりもギャラの高い仕事です。マネージメント契約はまずマネージャーが仕事もギャラもジャッジします。もちろん、役者がやらないと言ったら仕方ないですけど、たとえ安い仕事でも質のいい仕事なら持ってくる。役者の売り方をロングレンジで考えていますから。

三谷 そもそもエージェントという考え方は、すでに売れている俳優が利用する制度という考え方があります。

津嶋 売れていないと、俳優は勝手にオーディンションを受けに行きますからね、エージェントを通さずに。エージェントが営業をするところもありますが、基本的には来た仕事をさばいたり、契約書を交わす役割がメインのスタンスなので、アメリカは弁護士がやっていることが多いみたいですね。

三谷 エージェント制は日本に馴染むんでしょうか。いずれにしても、役者が相当勉強しないといけないですね。自分で判断できるスキルもあって、いろんなパイプもある、そういう人であれば、エージェントというのも考えられるのかもしれませんね。

津嶋 もちろん、そのほうが合理的だという考え方もありますから、これから出てくる可能性はありますね。

俳優本シリーズ

俳優を志す人に向けて作られた『俳優の教科書』。現在19,500部の大ヒットシリーズ

俳優やタレントを目指す人へ

三谷 最後に、これから俳優やタレントを目指す方に向けてアドバイスをお願いしたいのですが。

まず、ホリプロに所属するにはどうすればいいですか。

津嶋 10代であれば、スカウトキャラバンがありますし、いろんなオーディションをやっていますから応募してください。高畑充希はスカウトキャラバンではなく、舞台のオーディションでした。でも、スカウトキャラバンが分かりやすいですね。実はグランプリだけを採るわけではなくて、ファイナリストや予選で落ちた子でも、マネージャーが見ていますからね。それから、あまり良いことばかり言っても仕方がないので言いますが、うちは10代からじっくり育成するのが得意な事務所なんです。ですから、30代や40代の人は入りづらいです。なぜならば10代から育てている人がいるので、そのライバルをわざわざ採ることはあまりしていない。そのために、ホリプロ・ブッキング・エージェンシーを作ったんですけどね。そこは、キャリアがすでにある人や、無名でも舞台などで実力のある人が所属しています。

三谷 鈴木亮平さんも特殊なケースですよね。

津嶋 鈴木亮平はいろんな事務所に飛び込み営業をしていたんです。それでモデル事務所に入って、そこが当時ホリプロの系列だったし、本人が役者をやりたいと言っていると聞いて、会ってみたら「いいじゃん」となった。そういうふうに飛び込みでという人もなくはないですが、基本は断られますね。

三谷 なるほど。ちなみに売れる人に共通点ってあるのでしょうか?

津嶋 それはもう、やってみないとわからない。よく言われるんですが、タレント6割、マネージャー4割と。仮に80点取れたらスターになれるとしたら、タレントだけが頑張っても60点だし、マネージャーだけでも40点。両方頑張ってはじめてスターになれるのかなと思います。

三谷 ホリプロは製作会社でもあることが、大きな強みだと思うのですが、津嶋さんが映像事業部に戻られてから映画の製作本数が増えましたね。

津嶋 2010年に50周年を迎えて、そのときはマネージメントの部長だったんですが、いざ「周年映画」を作ろうとなったとき、当時、うちの映像事業部は悔しいことに大きな映画を作る体力がなかったんですよ。台本を作ってキャスティングまではしたのですが、現場の制作は別の映画制作会社に発注したんです。でもそれはもったいないから、うちで作れたほうがいいんじゃないかと。それで映像事業部に異動したとき、映画も作れる部署にしようと思ったんです。映画の場合は下手したら赤字になるのでリスクもありますが、出資をすると映画はヒットすると配分もあるし二次使用料も入りますからね。もちろんテレビも面白いですが、映画は特別な感じがありますよね。

三谷 外部にもう制作を委託していないんですか。

津嶋 それが、社員数の割に企画がどんどん決まりますから、人が足りず外部の方に作ってくださいというケースもあります。プロデューサーからすれば、ずっと現場で関わっていたい人もいますから、忸怩たる思いで外部に出すんです。本当はやりたくないんですが……。

三谷 自社で製作もして、マネージメントもしていると、キャスティングのバランスで迷ったりしませんか。

津嶋 それはあります。僕はマネージャー歴が長いので、うちのプロデューサーにとにかくホリプロの役者を使えと言って、うっとうしがられています(笑)。

三谷 でも津嶋さんがエグゼクティブ・プロデューサーにクレジットされている「勝手にふるえてろ」は松岡茉優さん、「娼年」は松坂桃李さんで、他の事務所の俳優ですよね。

津嶋 あの役は松岡さんと、松坂さんしかできなかったですね。他の事務所さんにもいっぱい、いい人がいますから。うちの子が主役ではまらないときは、他の役でキャスティングするとかね……。

三谷 津嶋さんは、インディペンデント映画の監督や俳優まで、たくさんご覧になっていますよね。

津嶋 もちろんですよ。うちはインディペンデント映画の祭典のぴあフィルムフェスティバルのオフィシャルパートナーでして、エンタテインメント賞(ホリプロ賞)も毎年出しているんですが、昨年その賞を獲った「スーパーミキンコリニスタ」という映画の主役をやった高山璃子さんがすごく魅力的でね。うちの作品にいまよく出てもらっています。いろんな人の目に留まることが大事だから、インディペンデント映画も、出ないよりは出たほうがいいですね。

三谷 ホリプロはプロデューサーも若返っていますよね。

津嶋 「勝手にふるえてろ」はうちの白石裕菜という女性が20代で企画・プロデュースしたんです。僕も経験がありますが、20代でやりたいことがいっぱいあるときに、ADやAPの仕事でどんどん疲弊していって、どんどん夢が失われていく。そういうのをどうしても避けたいと思ってね。それで公開中の「NO CALL NO LIFE」は60周年映画としてプロジェクトを立ち上げましたが、20代限定で企画募集して、当時24歳の佐藤慎太朗に白羽の矢を立ててプロデューサーにしました。彼が一緒にやりたいと言った監督の井樫彩さんも20代だし、主役の優希美青、井上祐貴も20代です。みんな20代で作ったから、大人が見ると理解できないところもあるかもしれない。でも大人になると忘れてしまう、そっちに行ったら危ないとわかっていても、どんどん危険な方に行ってしまうという、ヒリヒリした恋愛を描いた映画です。ぜひ見てほしいと思います。

三谷 井樫彩監督は「真っ赤な星」で長篇デビューし、映画24区が企画に参加した「21世紀の女の子」の1本を撮って、「NO CALL NO LIFE」が長篇2本目ですよね。僕も拝見したんですが、津嶋さんに「60周年、これで大丈夫ですか」って聞きましたよね(笑)。ホリプロのイメージだと、もっとニコニコとかホンワカした映画かなと思っていたら、けっこうギリギリのところを攻めていて。

津嶋 高校生の恋愛映画ですが、ぜんぜんキュンキュンしない(笑)。つらい恋愛映画です。因みに、ホリプロの50周年映画「インシテミル」は殺し合う映画ですし、40周年は藤原竜也主演の「仮面学園」と深田恭子主演の「死者の学園祭」ですからね。映画なんだから、いいんですよ、それで(笑)。

「NO CALL NO LIFE」全国公開中 / 2021年6月25日から、アップリンク吉祥寺で上映スタート!

監督・脚本:井樫彩 / 原作:壁井ユカコ

出演: 優希美青、井上祐貴、犬飼貴丈、小西桜子、山田愛奈

©2021映画「NO CALL NO LIFE」製作委員会 / 公式HP:http://nocallnolife.jp/

 

<プロフィール>

津嶋敬介(つしま・けいすけ)

1964年奈良県生まれ。株式会社ホリプロ取締役(映像事業部担当)。関西学院大学法学部卒業。1987年株式会社ホリプロダクション(現・株式会社ホリプロ)入社。映像事業部に配属されCMやドラマなどのAD・APを務める。1990年マネージメント第一事業部に異動。マネージャー、チーフ・マネージャーを経て、2003年部長に就任。2013年より映像事業部の執行役員として、映画、ドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー、CM、配信、web動画などの映像事業を統括する。2016年6月、取締役に就任。優希美青と井上祐貴が主演したホリプロ60周年記念映画「NO CALL NO LIFE」など数々の映画をプロデュースしている。

 

三谷一夫(みたに・かずお)

1975年兵庫県生まれ。株式会社映画24区代表。関西学院大学経済学部卒業。東京三菱銀行にて10年間、エンタメ系企業の支援に従事。2009年に「映画人の育成」「映画を活用した地域プロデュース」を掲げて映画24区を設立。最近のプロデュース参加作品に『21世紀の女の子』や全国の自治体とタッグを組んだ「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズなど。第1弾「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」(安田真奈監督)に続き、第2弾「夏、至るころ」(池田エライザ監督)が全国公開中。著書に『俳優の演技訓練』『俳優の教科書』(フィルムアート社)がある。

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