石橋静河「映画はひとりで作るものじゃない」 映画『いちごの唄』インタビュー

石橋静河「映画はひとりで作るものじゃない」 映画『いちごの唄』インタビュー

撮影:興村憲彦

数々の名ドラマを手がけてきた脚本家の岡田惠和と、俳優としても活躍するアーティスト、銀杏BOYZの峯田和伸が、銀杏BOYZの楽曲をモチーフにした小説を発表、映画化した話題作『いちごの唄』。年に一度、七夕の日にだけ会う男女のロマンチックなラブストーリーで、石橋静河は、織り姫もといヒロインの天野千日(ちか)を演じた。七夕の黄昏時、故郷を離れて若者の街・東京高円寺で、千日は、彦星にしてはいさかか頼りない青年・笹沢コウタ(古舘佑太郎)と偶然出会う。二人にとって七月七日は、十年前に千日をかばって交通事故で亡くなった、コウタの親友・伸二の命日でもあった。思いがけず楽しいひと時を過ごした二人は、来年もまた七夕の日に会う約束をして別れる。

どのように千日像を造形したのか

◎7月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国にて
(c)2019「いちごの唄」製作委員会

「役が決まる前に、岡田さんの脚本を読ませていただいたのですが、なんて素敵な物語なんだろう! と思いました。その後はじめて岡田さんとお会いした時、きっと嘘をつかない人だろうなと。そういう人がこういう本をお書きになるんだって納得しました。役が決まってからは、岡田さんの紡いだ世界が愉しみな反面、私にとっては挑戦になるだろうとも思っていました。脚本を読んだ時、物語全体として、これまでやってきたものとは違う空気を持った作品だなと感じたので」

どのように千日像を造形したのか。

「中学三年生の時に、自分のせいで同級生が死んでしまったと思っていること、十年経ったいまも、そこからまだ立ち直れずにいること……脚本に書かれてあることがすべてなので、それを手がかりにして。最初はやっぱり、心の中に抱える苦しみの重さに引っ張られすぎて、彼女の主観で役について考えるうちに、お腹が痛くなっちゃうことも多々ありました」

観客の想像力をかき立てる、難しい役どころ

(c)2019「いちごの唄」製作委員会

前述の通り、千日とコウタは年に一度しか会わない。作中、七夕の日を心待ちにするコウタの描写こそあるものの、千日がどのような日々を過ごしていたのかは一切描かれない。さらに言えば、コウタと再会するまでの十年間を彼女はどう生きてきたのだろうか? と観客の想像力をかき立てる、難しい役どころだ。

「その年々の七夕の日のトーンの違いは、脚本にしっかりと描かれていたので、監督とも『一年の間にいろんなことがあったんだろうね』って話しながら撮影していきました。ただ、一年に一度の逢瀬だけで過ぎてゆく時間は結構長く、その一年の間に彼女に何があったのかは脚本に書かれていないので、想像しきれない。それまで自分がやってきたアプローチでは役を理解しきれず、どこか手放しながら演じている感覚でした。核心が摑めないままやっていたので、すごく不安でしたね。泳げないのに、海に出てるみたいな(苦笑)」

「映画はひとりで作るものじゃない」

(c)2019「いちごの唄」製作委員会

中でも石橋の印象に残っているのは、ある七夕の夜、千日がコウタに自分の気持ちを吐露するシーンだ。

「撮影後に落ち込みました。正直に言うと、できなかったなって思ったんです。脚本を読んでいた時は、読むうちに必ず涙が出てきたのに、実際に撮影した時は全然違う気持ちになっていて。“あれ、これでいいのかな?”と不安になってしまって。何テイクかしてOKが出たんですけど、千日の気持ちを伝えきれてない気がして……。でも完成作を観たら、自分の心の中で起きていたことも含め、千日の気持ちを、監督をはじめスタッフの方々がちゃんと切り取ってくれていました。特に音楽に助けられているなって。世武(裕子)さんの音楽が千日に寄り添い、彼女の思いをやさしく拡張してくれたというのか。あのシーンを観た時に“あ、映画はひとりで作るものじゃないんだな”とあらためて強く思いました」

 

記事の続きは『キネマ旬報』7月下旬号に掲載。今号では石橋静河の取材記事はじめ、巻頭特集は「追悼 京マチ子」、企画・作品特集は『Girl/ガール』『工作 黒金星と呼ばれた男』などを掲載している。(敬称略)

取材・文=石村加奈/制作:キネマ旬報社

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