唯一無二の“存在感”柳楽優弥が語る役との付合い方『夜明け』インタビュー

『夜明け』の柳楽優弥は初々しい。演じるキャラクターが初々しいのではない。演技表現そのものが初々しい。確かなキャリアを積み重ね、唯一無二と言っていい存在感を身に付けた俳優が、かくも初々しく画面の中に存在していることに驚かされる。

「最近出てる作品の役が、どちらかと言えば個性的で。台本を読んだときに、組み立てるための摑みどころがあるものが多かったんです。今回のキャラクターは事前に組み立てていくというよりは、(撮影)現場で起きたことにしっかりリアクションできるようなやり方をしたいなと。そのことを監督に話したら、それでいいと思います、とオッケーが出たので、わりと生っぽいリアクションができるようになったから…ですかね」

撮影=近藤誠司

照れるように笑った。

「(主人公の)自立に向かっていく2カ月くらいを切り取った、ドキュメンタリーっぽい瞬間が多いなと感じますね。僕のことを想像したら(台本を書く)筆が進んだ、ということを監督はおっしゃっていました。求められたものに対して説得力を持って参加できたらいいなと」

考えないで現場に行くのが楽しかった

『夜明け』は、ひとりの青年が川で倒れているところから始まる。彼は木工所を営む初老の男に救出され、彼の家で厄介になるが、身の上を明かさない。男はそのことも容認し、問いただすことなく、受け入れる。映画は、秘密を抱える青年と、次第に歪(いびつ)な保護本能をふくらませていく男の、疑似家族的な関係を描く。柳楽が指摘するように、これは自立を描いた物語ではない。途上を切り取っているだけである。

「ずっと、途中です」

ぼそっとつぶやく。言葉は謙虚だが、奥底にあるものは力強い。事前に組み立てないという選択をしたのは柳楽である。考えないようにする。その抑制があった。

「普通は考えちゃうんですよね。今回は、周りに対するリアクションが多い役だったので、さすがにそれは事前には決められない。どういう感じになるんだろう? という怖さはありましたけど。ただ、考えないで現場に行くというのは楽しかったです。リアクションするの、好きなんで。表情とか、台詞がないところに(キャラクターの)情報がある気がした。台詞がないときに集中していましたね」

しっかり説得力のあるかたちで現場にいる

柳楽は役とはどのように付き合っているのだろう。

「わりと共感できるところが多いなあと思ったので、(自分の経験の)思い出せるところ思い出して。ただ、あまり重くはしたくなかったですね。いくら考えても、しっかり思い描いても、それが全部実現するわけじゃないんですよ。そういう(役に対する)情報よりも、物体として、しっかり説得力のあるかたちでしっかり現場にいる。そのことだけを考えていました。しっかり歩む。真っ暗なトンネルだけど、たまにライトが落ちてる、みたいな。(途中で)止まってもいいけど、歩く。そんなふうに取り組んでいました。ずっと」

真っ暗なトンネルをしっかり歩く。説得力のある物体になる。これがいまの柳楽優弥の演技作法なのかもしれない。

 

インタビューの続きは『キネマ旬報』1月下旬新春特別号に掲載。今号では「新しい時代の華麗なる幕開け」という特集で『マスカレード・ホテル』の表紙・巻頭特集をおこなった。木村拓哉、鈴木雅之(監督)のインタビューなどを掲載している。(敬称略)

取材・文=相田冬二/制作:キネマ旬報社

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