映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「リトル・エッラ」

現代的な題材も盛り込む、スウェーデンの児童文学を映画化

優れた児童文学は、幅広い世代に訴える平易かつ選び抜いた表現で、社会の真実を生き生きと捉える。スウェーデンのピア・リンデンバウムの絵本に基づく本作も、ひとりの悩める女の子の目線に徹することで、何かと厄介な世界の輪郭が、より明快に浮き彫りにされる。トミーを独り占めしたい気持ちとは裏腹に、やることなすこと裏目に出てしまうエッラのスティーヴに対する仕打ちは、〝汚れなき悪戯〞の範疇を超える嫌がらせにも見え、無邪気ゆえに歯止めも利かない残酷さや、狂おしいほど愛情深くナイーヴな、大人が抱く幻想を打ち砕くがごとき子どもの本質をも映し出す。その一方、同性愛といった概念抜きに、最愛の相手の関心を奪うスティーヴを目の敵にするエッラの純朴さには、偏見や差別に囚われることのない未来への希望も感じ取れる。

 

前に通っていた学校でいじめに遭い、友情を育む素晴らしさも失う恐ろしさも身をもって知る転校生の少年オットー。少々変わり者だが独特の感性をもち、墓地に眠る死者や嫌われがちなネズミにも等しく愛情を注ぐ、原作には登場しないオリジナルのキャラクターが、生きたもの生けるものすべてに意義や価値があることを謳い、スティーヴを追い出すのに必死でダークサイドに堕ちそうなエッラの窮地も救う。器の大きい年長者にばかり囲まれた甘えもあってか、少々わがままが過ぎるエッラが、自身の過ちを猛省し、大好きなおじさんのために奔走するきっかけをつくる同級生の存在は、長所も短所も認め合う友だちの大切さを、改めて気付かせてくれる。

とりわけ印象的な〝友だちは人生の庭に咲く花〞との至言を、映画ならではの胸高鳴るハイライトの数々へと昇華させた、老若男女の心に響く良作だ。



文=服部香穂里 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2024年4月号より転載)


「リトル・エッラ」

【あらすじ】
友だち付き合いが苦手なエッラは、おじのトミーだけが親友と自負するサッカー大好き少女。両親が旅行のあいだ、ふたりで過ごすのを楽しみにしていたエッラだが、オランダ出身のトミーの恋人スティーヴが現れ、嫉妬心を募らせる。理解不能な英語で秘密めいた会話を楽しむ彼を排除せんと企むエッラは、転校生オットーに協力を仰ぎ作戦を開始する。

【STAFF & CAST】

監督:クリスティアン・ロー
出演:アグネス・コリアンデル、シーモン・J・ベリエル
配給:カルチュアルライフ
スウェーデン=ノルウェー/2022年/81分/G
2024年4月5日(金)より全国順次公開
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