小泉堯史 コイズミタカシ

  • 出身地:茨城県水戸市
  • 生年月日:1944/11/06

略歴 / Brief history

【“世界のクロサワ”の愛弟子から21世紀の名匠へ】茨城県水戸市の生まれ。写真家を志し、東京写真短期大学(現・東京工芸大学)写真技術科を経て、早稲田大学に入学。卒論に黒澤明の「赤ひげ」(65)を取り上げ、映画の世界に興味を抱く。卒業後の1970年、黒澤、木下惠介、市川崑、小林正樹の4人により組織された“四騎の会”所属となり、黒澤に師事。71年、黒澤監修のテレビ用ドキュメンタリー『馬の詩』に助監督として参加する。73年、「デルス・ウザーラ」の撮影で黒澤がソ連に赴き不在の間、市川、中平康、吉村公三郎らの助監督、スチールマンなどをつとめる。80年の「影武者」以降の黒澤作品すべてに脚本準備の段階から助監督として参加。その傍ら、『光と影(ポルトガルの騎馬闘牛)』(85)、『陽光のミャンマー紀行』(97)などのテレビドキュメンタリーを監督した。2000年、山本周五郎原作による黒澤の遺稿を、黒澤組のスタッフを結集して映画化した「雨あがる」で、劇場映画デビュー。山路ふみ子映画賞、日本アカデミー賞最優秀作品賞、ヴェネチア国際映画祭・緑の獅子賞など、国内外で高い評価を受ける。続く「阿弥陀堂だより」(02)では、オールロケした長野県飯山の美しい四季を追いながら、現代社会の中で失われつつある大切なものを見つめた。小川洋子の同名ベストセラーを映画化した「博士の愛した数式」(06)では、柔らかな文体を静謐な映像へと結実。08年、大岡昇平の『ながい旅』が原作の「明日への遺言」はドキュメンタリーばりの長廻しによる撮影を敢行し、裁く側、裁かれる側、その家族をも等しく映し出すことで戦争という“悪”をあぶり出す強いメッセージを放つ。【自然・人間へ慎ましい姿勢】撮影所システム崩壊時に映画界入りし、黄金期の名匠のもとで腕を磨いた正統派の助監督出身者。恩師・黒澤亡きあと、「雨あがる」で“遅咲きの新人監督”としてデビューした小泉であるが、その後も、心より撮りたい素材や出逢いたくなる人物だけを厳選し、マイペースで作品を発表している。黒澤から綿密な脚本作りを学びつつ、自ら脚本も手がけ、「阿弥陀堂だより」「博士の愛した数式」では、原作のエッセンスはそのままに、“師匠と弟子”というモチーフを掘り下げて脚色。「阿弥陀堂だより」には、主人公の恩師がガンに侵されながらも余命をあるがままに生きようとする印象的なエピソードが加えられ、「博士の愛した数式」は、博士の家政婦の語りで進む原作に対し、彼女の息子が中学校の数学教師となったという原作の結末を膨らませて、彼の初々しい授業とともに、博士との思い出が綴られる。自然やその一部である人間への謙虚で慎ましい姿勢、俳優から余計なものを削ぎ落としていく演出術は、黒澤とは似て非なる小泉独特のものであるが、ふたりの関係性を作中に忍ばせ、師にオマージュを捧げているように見えるのも興味深い。

小泉堯史の関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 峠 最後のサムライ

    制作年: 2020
    司馬遼太郎のベストセラー小説『峠』の初映画化。慶応3年、大政奉還により徳川幕府は終焉を迎え、諸藩は東軍と西軍に二分していく。戊辰戦争が勃発すると、越後長岡藩の家老・河井継之助は民の暮らしを守るため、いずれにも属さない武装中立を目指すが……。監督・脚本は、「蜩ノ記」の小泉堯史。出演は、「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」の役所広司、「ラストレター」の松たか子。
  • 散り椿

    制作年: 2018
    黒澤組出身の名キャメラマン木村大作が、直木賞作家・葉室麟の同名時代小説を原作に岡田准一主演で映画化した監督3作目。時の権力に負け、藩を追放された瓜生新兵衛。亡き妻・篠の最期の約束を叶えるために故郷に戻った新兵衛は、藩の不正事件の真相を探る。脚本は「雨あがる」「蜩の記」の監督を務めた小泉堯史。共演は「クリーピー 偽りの隣人」の西島秀俊、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」の池松壮亮、「64 ロクヨン」の緒形直人、「犬猿」の新井浩文、「ディストラクション・ベイビーズ」の柳楽優弥、「心が叫びたがってるんだ。」の芳根京子、「俳優 亀岡拓次」の麻生久美子、「孤狼の血」の石橋蓮司、「舞妓はレディ」の富司純子、「棒の哀しみ」の奥田瑛二。音楽は「最後の忠臣蔵」「蜩の記」の加古隆。2018年、第42回モントリオール世界映画祭で最高賞に次ぐ審査員特別グランプリを受賞。
  • 蜩ノ記

    制作年: 2014
    長らく黒澤明に師事し「雨あがる」「博士の愛した数式」などを手がけた小泉堯史監督が、第146回直木賞を受賞した葉室麟の同名小説を映画化。無実の罪で10年後に切腹、その間藩史を編さんするよう言い渡された男と監視役についた男との心の交流や家族愛を描いた時代劇。藩の秘密を握り切腹という過酷な運命を背負いながらも一日一日を大切に生き藩史の編さんに向き合う男を「十三人の男」「Shall we ダンス?」の役所広司が、彼の清廉な人柄に魅了され成長していく監視役を「永遠の0」「天地明察」の岡田准一が演じる。ほか、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの堀北真希、「ぼくたちの家族」の原田美枝子らが出演。
    70
  • ナンバーテン・ブルース さらばサイゴン

    制作年: 1975
    1975年4月30日、南ベトナムの首都、サイゴンは民族解放戦線の攻勢の前に陥落し、南ベトナム臨時革命政府が樹立された。この映画は、そうした歴史的な激動の地、ベトナムを舞台に三人の若者の脱出行を描く。脚本・監督は「修羅雪姫 怨み恋歌」を執筆した長田紀生、撮影は椎塚彰がそれぞれ担当。諸事情により未公開となっていたが、国立フィルムセンターに所蔵されていたネガと0号プリントを元に2012年10月にデジタル編集の上、修復完成。2013年にロッテルダム国際映画祭で正式招待作品として上映された。2013年9月21日より、広島県尾道市、福山市で開催された「お蔵出し映画祭2013」にて上映。2014年4月26日より、プレサリオの配給にて全国公開された。
  • 明日への遺言

    制作年: 2007
    第二次大戦中、無差別爆撃を実行した米兵を略式裁判で処刑した罪で、B級戦犯として裁かれた東海軍司令官・岡田資中将の法廷での闘いと、彼を見守る家族たちの絆を描いたヒューマン・ドラマ。大岡昇平のノンフィクション『ながい旅』を原作に「博士の愛した数式」の小泉堯史が監督。主演は、『必殺仕事人』シリーズの藤田まこと。共演に、「あ・うん」の富司純子、「フラガール」の蒼井優ら。
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  • 博士の愛した数式

    制作年: 2005
    記憶を80分しか維持出来ない数学博士と若い家政婦母子の心の交流を描いたヒューマン・ドラマ。監督は「阿弥陀堂だより」の小泉堯史。第1回本屋大賞に選ばれた小川洋子による同名小説を基に、小泉監督自身が脚色。撮影を「わらびのこう 蕨野行」の上田正治と、北澤弘之が担当している。主演は、「亡国のイージス AEGIS」の寺尾聰と「踊る大捜査線 BAYSIDE SHAKEDOWN 2」の深津絵里。第18回東京国際映画祭 特別招待作品出品、芸術文化振興基金助成事業作品。
    90