今、SF映画と言えば、ハリウッドの専売特許のように思われがち。
しかし、1920年代に製作されたドイツ映画、フリッツ・ラング監督『メトロポリス』を忘れてはならない。
女優、脚本家でもあるマリア・シュラーダー監督が、2021年に公開したドイツ製作の近未来SF恋愛映画。
世界を劇的に変えつつあるAIを題材に、女性らしいナイーヴな視点から、このように繊細な作品を撮ってしまった。
アルマ主導の楔形文字研究チームが、ブエノスアイレスに先を越されてしまったシーンに注目。
競争に敗れて苛立つアルマに、トムは「この研究は人類(全体)の宝だ」と説く。
「太古の昔から言葉は深淵だった」「人は常に言葉で遊び 詩情を伝えるため詩を作った」「公表されるべきだし そうなる」「成果は変わらない」。
「その目に溢れている涙は君自身のキャリアに対して?」「それは利己的な涙だよ」。
アンドロイド=レプリカントに人間が生きる意味を教わる、『ブレードランナー』と同じベクトルではないか。
終盤、大切な伴侶クロエを紹介するステューバー博士の台詞なんか、「自分はずっと不幸だった」と思っている方々は涙なしには観られないかも。
ところが、さんざん考えた挙句、アロマがロゲールに書き送った“アンドロイド評価”の内容は……。
人間を歴史的に俯瞰すれば、“自らが生み出したものに多大な影響を受ける”という特徴がある。
AIが日常の隅々にまで行き渡る社会は、これまでの人間の生活や生き方をも、大きく変貌させる可能性に満ち満ちている。
異文化研究者でありながら旧態依然とした人間観に拘るアルマは、言葉→『聖書』というキリスト教社会の象徴?