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日本全国のマカロニ野郎どもに緊急速報！マカロニ・マニアの間で囁かれていた、『復讐のガンマン』の完全版が、アメリカで遂にＢＤでソフト化された。残念ながらアマゾンジャパンでは取り扱いがないので、こうして日本版ソフトのページに書く次第。もちろん、日本でのソフトリリースも声高に叫ばせて頂きたいが、その前に件のソフトのスペックを。
発売元は、あのタランティーノやロドリゲスとも関係が深いGRINDHOUSE RELEASING で、４枚組みの豪華限定版だ。
★『復讐のガンマン』完全版（イタリア公開版・110分）イタリア語音声・英語字幕【ＢＤ】
★『復讐のガンマン』アメリカ公開版（従来のコロンビア版に検閲が入る前の、削除された３シーンを復元した95分バージョン）英語音声【ＢＤ】
★上記アメリカ公開版復元バージョンのＤＶＤソフト（リージョンフリー）
★『復讐のガンマン』オリジナルサントラＣＤ
※他にも、監督セルジオ・ソリーマ、脚本セルジオ・ドナティのインタビュー２種ずつ、トーマス・ミリアンのインタビュー、西部劇研究家によるオーディオコメンタリー、予告編集、スチールギャラリー、そして22pのライナーノーツを封入
実は、『復讐のガンマン』の完全版は、厳密に言うと日本で未ソフト化だった訳ではない。が、それは販売用のソフトではなかった。かつてソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが発売していた「マカロニウェスタンコレクション」のＤＶＤ－ＢＯＸを全３巻そろえると、プレゼントとしてもらえる「スペシャル・ディスク」という形で、ファン心理を利用した悪徳商法のようなものとして制作されていたのだ。一巻で１万２千円もするようなＢＯＸを３つもポンと買うのは、家庭を持っているおとーさんには逆立ちしても無理な話で、ごく一部の熱狂的マニアの方々が手にしたに留まったのである。
しかし、このことがきっかけで、『復讐のガンマン』にはノーカット完全版というものが存在していることが知られるようになったのだ。
では、そもそもこの完全版とは何ぞや、という話をしよう。
『復讐のガンマン』は、他のマカロニのソフトと違い、大手のコロンビアが配給したものがソニー・ピクチャーズからＤＶＤとして発売されている（イマジカはからんでいない）。これは「アメリカ公開版」で、元のイタリア公開版から色々なシーンやカットを削って短くされたものなのである。ゆえに、音声も英語。ランニングタイムは９０分弱。そして、日本で劇場公開されたのもこの「アメリカ版」だったため、日本とアメリカのマカロニ・マニアたちは、長らくオリジナル版の存在を知らなかったのである。
ところが、イタリアで公開されたオリジナル版は１１０分と、２０分も長いバージョンだったのだ！
つまり、よりマニアックで厳密な表現をすると、英語タイトル『THE BIG GUNDOWN』表記版というのは短縮版で、イタリア語タイトル『LA RESA DEI CONTI』こそが完全版、ということになる。
さらに・・・アメリカ公開版には、９５分版という検閲前のバージョンがあり、９０分の公開版から削除された３シーンが復元されたものが発掘された。こちらもレストアされた高画質で収録した、マニア垂涎の豪華コレクターズアイテムが、『THE BIG GUNDOWN』4Disc Collector’s Edition なのだ。
では従来のバージョンとどこが違うかを書いて行こう。まず大きく異なるのは、冒頭のクリーフが３人のならず者を斃すシーンだ。アメリカ公開版では、吊るし首にされた仲間に気付いた３人が、矢継ぎ早にクリーフに撃たれ、最後の一人になぜか「ガンベルトを外せ」と言う。男はおそるおそるガンベルトを外すが、クリーフが背中を向けた隙に銃を抜こうとして・・・お約束でズドン！となる。
ところがイタリア完全版では、ならず者の一人がクリーフに向かって「お前を斃すのは一発で充分だ」と挑発し、クリーフがそれに応えて、自分の拳銃から３発弾を抜いて横木の上に並べる（この時点で、クリーフの銃にも３発しか弾が残されていないことになる）。男たちはその弾をそれぞれ自分の銃に装填し、一人ずつ決闘を行い「一発」で斃してゆく。そして３人目が、クリーフには敵わないと観念し命乞いをすると、クリーフが「ならばガンベルトを外せ」と言う。後は同じ顛末。
上記のような違いが、編集の妙技（？）によって、決闘を端折ってまるでクリーフに次々と撃ち斃されたかのように見せられていたのである。それにしても、オリジナル版の何とも粋な演出よ！
本作の作品性に関わるほどに大きく違うのは、上記のシーンであろう。あともうワンシーン筆者の印象に残ったのは、コーベット（クリーフ）がクチーヨ（ミリアン）を追ってメキシコに入る直前のシーンである。国境近くにある修道院にクチーヨが逃げ込み、焼きあがったばかりの、祝福を受ける前の聖餅をペロリと平らげ、修道士たちを唖然とさせる。そして、クチーヨが去った後にやや遅れてやってきたコーベットが、クチーヨを追うために、いよいよ国境を越えてメキシコに入らなければならない事に苛立つ様子が描かれる。その際、修道士の一人が銃に関心を向けるので、コーベットが拳銃を渡すと修道士が石火の抜き打ちで庭の樹の幹に何発も叩き込む、というちょっと面白いシーンがある。つまり、この坊さんは昔、凄腕のガンマンだったのだ。
コロンビアの重役たちは、アメリカでの公開に際してこのシーンはストーリーの進行上、特に必要ないと判断したようだが、実はこの「国境ぎわの修道院」での一幕があることで、コーベットが勝手知ったる土地から、異国のメキシコ＝相手の縄張りへと足を踏み入れていかねばならなくなる、つまり「地の利を得た有利な状況から不利な状況へ反転する」、その境目が強調されるのである。
アメリカ版では、コーベットが開拓者一家から馬と銃を無理矢理奪って（紳士にあるまじき行為をとるほどに、この時のコーベットは苛立って焦っていたわけだ）去った次のシーンでは、もうすでにフェルナンド・サンチョの警備隊事務所（メキシコ）にいて、国境越えせざるを得なかった印象が非常に薄く、コーベットの追跡行が迷走してゆく様子が伝わりにくい。
実は本作のストーリーテリングで重要なのは、冷静沈着、頭脳明晰で凄腕のマンハンターのコーベットが、粗野で無教養なメキシコ人のクチーヨを、着実に追いつめて行くように見えるが、実はクチーヨの方が一枚上手で、気付くと追う側のコーベットの方が不利な状況に追い込まれている（ゆえに本作は「メキシコ人が白人を出し抜く映画」として南米で大ヒットし、続編ではクチーヨが主人公になってしまったのだ）・・・しかも、クチーヨは何度もコーベットを殺すチャンスがあったはずなのに、ただ逃げるだけ。コーベットから奪ったものは、必ずコーベットの手に戻るような状況を残してゆく・・・そうした追いつ追われつの中で、コーベットはクチーヨが犯人ではない、という事に気づいてゆく。ここが重要なポイントなのだ。
あとは、シーンの長さやカット単位の非常に細かい違いが多く、全てを列挙するのは不可能だ。かつての『夕陽のガンマン』のＬＤ版を想像して頂くと似ているかもしれない。例えば、前半でコーベットに追われたクチーヨがモルモン教徒のキャラバンに逃げ込むところでは、町にやって来たモルモン教徒たちがやじを飛ばされるシーンがある。これによって彼らがモルモン教徒だという事が強調され、「実は娘ではなく○人目の妻だった」という笑えるオチが利いてくるのだが、アメリカ版ではいきなりモルモン教徒のキャンプ地のシーンになっている、といった具合だ。
あと、なぜなのか判らないが、数字が各所で変更されていて、オーストリアの銃の名手「男爵」が決闘で斃した相手の数が、アメリカ版だと「２３人」だったのがオリジナル版では「３３人」、モルモン教徒のキャラバンのリーダーの妻の数がアメリカ版だと「４人」、オリジナル版では「７人」だった。なぜ変える必要があったのか、これは謎だ（笑）。
画質に関しては、コロンビア版ＤＶＤも悪くはないが、コレクターズ版はより高画質にレストアされている。さらに、色がかなり濃く修正されていて、抑え目の色調のコロンビア版とはかなり印象が違う。カットによっては、マカロニ映画のロビーカードかと思うようなどぎつい色合いのカットもあって、この辺は「GRINDHOUSE RELEASING」のこだわりなのだろう。人物の肌の色などに、ギラギラしたマカロニ感が出ている画質になっている。
アメリカ版の編集は、冒頭のシーンが改変されている不満はあるものの、全体的にはテンポ良く観ることができ、２０分もの違いがありながらも、作品性を大幅に損ねるような酷い編集ではないと思う。しかし、オリジナルのイタリア版をあらためてみると、そこには監督セルジオ・ソリーマの細かいこだわりが視えてきて、やはりマニアとしては完全版の方が良いということになる。
コロンビア版（アメリカ公開版）のソフトを日本で販売しているのはソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントで、プレゼント用の「完全版」をかつて制作したのも同じソニーなので、日本で完全版を販売できないという版権上の問題はない・・・と思うのだ。なぜいままで２バージョン収録で販売しなかったのか、ひたすら謎であるが、マニア心が判っていないところがイマジカ－ＳＰＯとの大きな違いだと言わざるを得ない。
ＢＤで再発する時には、ぜひ・・・どころでなく絶対に「完全版」同時収録、もちろんGRINDHOUSE RELEASING から版権を取得したマスターで！と叫び、本レビューを締めくくらせて頂きたい。
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