映画専門家レビュー一覧
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ジオラマボーイ・パノラマガール
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映画評論家
吉田広明
キレイでカッコイイトーキョーとか、世界がどうなろうと好きな子と一緒にいられればそれでいいとか、アイロニーとも本気ともつかない危うさ、脆さはいかにも岡崎京子で80年代的。外=世界に晒されずに済むモラトリアムと、外は外だった80年代が重なり、岡崎の描く少年少女は時代のアイコンたりえた(岡崎自身は外の過酷を知っていたが)。しかしもはや外が外ではなく、子供ですら容赦なく世界に晒される現在に本作が作られる意味は、逆説的に今(の悲惨)を感じさせる点にあるのか。
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461個のおべんとう
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フリーライター
須永貴子
お弁当も、父親と息子の3年間のストーリーも、丁寧仕立て。特筆すべきは、井ノ原快彦が演じる父親=原作者の渡辺俊美が所属するバンドのキャスティングと演奏シーン。トリオ編成や担当楽器、なんとなくのキャラクター設定はそのままに、バンド名と人名を変更し、この映画のために渡辺が書き下ろした3曲を、井ノ原、KREVA、やついいちろうがフルで披露した。この手法は画期的な発明であり、音楽映画として高く評価したい。エンドロールの映像はアイドル映画として大正解。
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脚本家、プロデューサー
山田耕大
パパが息子に弁当のことを「お弁当」と言う。それがこの映画を象徴している。パパが作るお弁当はプロ顔負けの、まるでデパ地下の売り物。品行方正な人たちが当然のように品行方正なことをする。こんな人たちを見たことはないから、神様かフィギュアかどちらかなのかも。その人たちがまるで実感のこもっていない、「あれ?」と首を傾げるような的外れなことを言う。どこかで借りてきたレッテルを貼っているよう。フェイスブックやインスタグラムでの自慢を延々見せられた気持ちがした。
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映画評論家
吉田広明
息子が父に向って質問し、父が返す答えに息子が不審げな顔つきをすると「もっとちゃんと説明した方がいい?」と問い返し、息子が「分かった」と答える場面が二度ほどあるが、映画全体がこんな調子、何となくで進んでゆく。父が弁当を作り続ける意味、それを通して父と子の関係がどう変わったのか、父がフクシマ出身は物語にどう関わるのか、また母親との関係が父と息子の関係にどう影響するのか、全部結局曖昧で、何となく分かるでしょ、と観客に丸投げしている印象だ。隔靴掻痒な映画。
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昨日からの少女
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映画評論家
小野寺系
ベトナムのキラキラ映画ともいうべきピュアな恋愛作品で、映像にはツルンとしたキレイさがある。随所にCGが使われ、全体的な質はコントロールされているものの、男子高校生の恋愛と、少年時代の思い出が並行して描かれる構成は単調に感じられる。本筋のエピソードに大きな葛藤が存在せず、予定調和に進んでいく物語は安心できるが刺激が少ないし、陰の部分がない明快な演出で、引っかかる要素を見つけづらいまま進んでいくのはつらい。南国の植生や緑の色は美しく印象的だった。
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映画評論家
きさらぎ尚
美人の転校生にひと目惚れしたお調子者の男子高校生があの手この手でアプローチするが、実は彼女は……、だった。結末で……部分が明かされるまで、10年前の子ども時代の回想シーンがやたら多く、鬱陶しい。例えば時間を超えるファンタジーにするなどの工夫があればすっきりしたかも。それにしても、ことあるごとにしなを作る女性教師、唐突に浮上した体育教師と級長の関係、その?末など、理解が及ばない。加えて演出のもたつきにも不満あり。風景の美しさには目が和むのだが。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
説明過多のナレーション、人物の心情や動きに律儀にリンクさせるミッキーマウシング的手法の音楽のあて方など、とにかく描写が脂っこくてゲップが出てしまうとはいえ、キラキラ映画としてはかなり誠実に作り込んでいるし、幼少時代の物語はすこぶる可愛らしくて好感が持てるのだが、過去と現在の恋模様をさほどの必然性もなく交互に見せてゆく構成のうえに額の傷などという「愛と誠」な古典ネタを被せてしまったら、多くの観客は中途で大オチが読めてしまうのではないでしょうか?
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PLAY 25年分のラストシーン
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映画評論家
小野寺系
「クローバーフィールド/HAKAISHA」や「クロニクル」のように、フェイクドキュメンタリーの手法を利用しつつ、周到にカメラの位置を計算しながらドラマを見せていく。その撮り方で恋愛を扱うコンセプトは面白いし、予算なりの工夫が随所にうかがえる。だがコメディアンが演じる主人公の異様なテンションの高さや、彼の身勝手な態度ばかりが映し出されるために感情移入が難しく、そんな主人公にヒロインがずっと愛情を感じ続けているのは不可解。わだかまりが募ってしまった。
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映画評論家
きさらぎ尚
フレンチ・コメディの特徴のひとつに、自らの体験を笑いで伝えることを挙げるとしたら、人気コメディアンが主人公を演じるこの映画はまさにそれ。少年時代から四半世紀にもわたって個人的に撮り続けたホームビデオをつないで観客に披露するのだから。時におふざけが過ぎて引いてしまうこともあるが、雑音を入れて時代感を出したり、カメラをブレさせて素人のビデオ・オタクを演出したりで、それなりに凝った作りをしている。画面に見える映像や通信などの情報ツールの進化が面白い。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
ある男が25年撮りためたものを編集した映像でありふれた人生を延々と見せてゆくこの手法はそれが本物であるなら素晴らしいが、あくまで作られたものであるし、フェイクドキュメントとしてもリアリティ面に首を傾げてしまう部分が多く、そもそも記録者が何でもビデオに収める趣味の男であるからどんなシチュエーションが映っていてもおかしくないというのは、これはもう設定からしてちょっとズルいなあと思ってしまうも、随所に技は感じるし、ラストは胸キュンでよかったよかった。
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ストックホルム・ケース
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映画評論、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
コメディタッチに人質銀行襲撃事件を描写。金庫に入れられていたのは「紙幣」ではなく「心情」。いくら強固な施錠をしたとて、人の心は不可思議で予期せぬ科学変化を起こしてしまうものだ。そもそも恋愛とはある種の非日常的な共犯的犯罪で、集団的な常識を侵犯し禁忌を踏むところにある。それを「結婚」という法に落とし込むというすり替えを行なうことで社会の安定をもたらす。「通貨」「警察」「政治」という三大公的立場と対峙するものが、「心情」や「予定不調和」か。
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フリーライター
藤木TDC
銀行強盗映画にしてはテレビ並みに健全で、E・ホークの演技も奇矯とはいえ目を瞠る域でもなく、かといってリアリズムに徹したわけでもなく、劇場で見て充実を得る内容とまでは。また基づく実際の事件は違っても、どうしても「狼たちの午後」を意識してしまい、予算を縮小してお上品に改変したリメイクの印象も。ストックホルム症候群の不可解な心理も、私はB級犯罪映画や成人映画に用いられたそれを見過ぎているせいか新味は感じず、正直この映画の興行価値はよく分からない。
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映画評論家
真魚八重子
ストックホルム症候群を奇妙な心理状態とみなして撮るか、人質解放のための交渉術をパニックスリラー的に撮るかなど、視点が色々考えられる題材において、いささか退屈な設定に落ち着いたのがもったいない。被害者の人間心理として真っ当な生存戦略であるのを、こんな極端な場で出会った男女のほのかな惹かれ合いにしても別にいいのだが、慎みのベールでもう一歩踏み込まない。中盤以降に動き出す、警察や首相を悪人に仕立てた三つ巴の犯罪ドラマのほうが盛り上がる。
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トルーマン・カポーティ 真実のテープ
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映画評論、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
奇しくもカポーティが亡くなった1984年に録音された数々の証言が約40年ぶりに発掘。そして数々の美しい古写真に肉声が重ねられ、NYとその時代性が炙り出されていく。一際目力の強い少年の写真は証言で一気に生気を帯びてくる。現在NYはコロナで死都に変貌しつつある。自分が愛する者を「小説」で死刑や自殺に追い込んでいく屈折した愛の形は、愛情と軽蔑が入り乱れ倒錯しているが、NYらしい。都市と出来事を肉声と写真とで再考察する内容は、記憶という業を考えさせられる。
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フリーライター
藤木TDC
「三島由紀夫VS東大全共闘」同様、すでに書籍(G・プリンプトンによる伝記)にある内容の映像付き要約だが、映画「カポーティ」と重なる要素は少なく、焦点は遺作『叶えられた祈り』にある。カポーティ本人の動く姿がたっぷり見られ、彼が主催した舞踏会や通ったディスコ(スタジオ54、R・フィリップ主演映画「54」の舞台)の映像も登場し旨味濃厚。60年代に政治と係わらなかったアメリカ人作家の存在意義を今日的に問い直す。未読ならきっと『叶えられた祈り』が読みたくなる。
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映画評論家
真魚八重子
ネタ元の人が面白ければ逸話も多くて、下手な撮り方をしなければそこそこ観られる作品に仕上がる。それにカポーティほどお騒がせな著名人となると、写真だけでなく映像資料も豊富に残っている。だがインパクトがあって映える画像となると、結局見慣れた写真ばかりになってしまうのはありがちな注意点だ。奇行、麻薬、虚言癖のどれをとっても見聞きしたことのある話で、新ネタがない時に作るドキュメントとはなんだろうと思う。安易なドキュメンタリーの量産は続く。
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私たちの青春、台湾
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映画評論、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
記憶に残るひまわり革命など台湾の青く初々しい学生運動が内部から描かれる。監督のモノローグとともに、ふたりのリーダーが頭角を現し、神格化され次第に挫折に至る過程。最終的には「社会運動」も「ドキュメンタリー」も「私(監督)」も、無力で役立たずだと肩を落とす。しかしその題材を自分ごととして撮らざるを得ないその意思そのもの、監督自身が映り込む。これは華々しい社会変革こそ起こさないが、明らかにドキュメンタリー作品として成功であることは間違いない。
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フリーライター
藤木TDC
意地悪な見方をすれば、出演者と監督の挫折が映画を面白くした。台湾学生の革命ごっこにも見える無邪気な政治闘争に混じった監督は、国を動かす歴史のダイナミズムに巻き込まれる。ひとときの全能感とあっけない理想の頓挫。その瞬間にしか撮れない記録は青くさく、若い女性監督ゆえの感傷も濃いが、そこにむせかえる「青春」の匂いと「映画」の成立がある。香港の民主活動家・黄之鋒がたびたび登場(周庭も一瞬)。ひまわり運動は雨傘革命に強く影響し世界を揺らしたのだと知った。
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映画評論家
真魚八重子
学園祭などで参加者から「楽しかった」と興奮気味に繰り返されても、何がどのように起きて楽しかったのかという客観的理由を説明されないと、状況が把握できないものだ。本作は渦中でカメラを回していた人間にとって、雑多な感覚として正直なのはわかるが、2時間の映画として立ち会うのはきつい。監督の「私」の語りが、時折登場人物である博芸の行動のような編集だったり、現場の中心人物たちへ微妙な感情的介入をしたりするのも、混乱を招いてわかりづらくしている。
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ウルフウォーカー
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映画評論家
小野寺系
カートゥーン・サルーンの、ケルト3部作完結篇にあたる。他の作品同様、シンプルなシナリオで伝説を描いているので、やや単調な印象を持ったし、今回はとくに分かりやすい悪役の登場によって勧善懲悪の価値観に収斂し過ぎてしまっている。多様性など現代的な問題がテーマとなっているが、同スタジオの「ブレッドウィナー」の方により切実さを感じた。とはいえ3DCG全盛の時代に、平面的な絵のレイヤーを幾重にも重ねることで新しい映像世界を作り上げているところは素晴らしい。
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