hisの映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
「愛がなんだ」以後、続々公開される今泉監督作。この「his」もそつなく仕上げてはいるけれど、もひとつ響くものがない。「愛が」のヒロインの想いの偏執狂的なおかしさ、周囲の面々の描き込みの濃やかさに比べるとここにある葛藤はあまりに薄味で笑いにも涙にも行き着かない。結局、山里での隠遁生活を選ぶゲイ・カップルを前に男と女、男と男、人と人、性差を超えて都市に生きる存在そのものの孤独をみつめたロウ・イエ「スプリング・フィーバー」をつい懐かしんだ。
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編集者、ライター
佐野亨
一歩踏み外せば白々しくも押しつけがましくも映ってしまう設定や人物像を、ぎりぎりの大胆さで成立させているのはやはり演出の手腕だろう。作劇がいささか子どもの饒舌に頼りすぎている点と、弁護士二人のわかりやすい対比のさせ方に疑問は残るが、それじたいが「ことば」をめぐって迷走する現代のコミュニケーションの批評的誇張と考えればわるくない。役者のアンサンブルもみごと。とりわけ終盤、中村久美の目線だけである心象を語らせようとする描写の丁寧さは特筆に値する。
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詩人、映画監督
福間健二
もう少し工夫があってもよかったと思うのは、対比される都会と田舎、それぞれの画の作り方と、音のズリ上げを多用する話の運び方。いかにもそれらしい景色に頼りすぎているかもしれない。しかし、宮沢氷魚と藤原季節の演じるゲイの二人の「どう生きるか」に関しては、決めるべきは決めている鮮度ある明快さを感じた。親権をめぐる裁判に向かうあたり、ダグラス・サーク的になるかという緊迫感も。今泉監督、愛の作家。でも幸いにか、人を誘い込むような夢を広げるロマン派ではない。
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