初恋(2020)の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
川口敦子
開巻直後にごろりと転がる人の頭部。どこが「さらば、バイオレンス」?!と戸惑う観客の胸ぐらを?んでパルプなTOKYOノワールへ、暴力と笑いがきれきれに連なる一夜の狂騒へと引きずり込む。その凶暴な切れ味に三池印を刻むいっぽうでお務めを終えたやくざに黒社会の女刺客と、仁義をかざしてジャンルの規範を想起させる存在を輝かせ最初期タランティーノ映画とも通じる好ましさを召還する。昔気質へのそんな愛が「中国の鳥人」でこそ記憶したい監督+脚本コンビ最大の美点だろう。
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編集者、ライター
佐野亨
三池崇史監督の原点回帰を企図して好きなものを好きなように撮らせた結果、(少なくとも2010年代以降ではぶっちぎりの)最高傑作ができてしまった。寡黙なボクサー、仁義に厚い武闘派ヤクザ、知略家と思いきや間抜けな組織の裏切り者、暴走するキレ女といったステレオタイプ的なキャラクターが、三池作品が時に陥りがちな極端な戯画化演出の一歩手前で役者の身体性と融合し、すこぶる魅力的に躍動する。恋愛ならぬ共生のドラマとしても誠実で、優しいラストカットに思わず涙。
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詩人、映画監督
福間健二
二〇年前に出ていれば大傑作。まずそう思ったが、いまこれをやれるのもすごい。活劇映画のヴァイオレンス、どうするか。三池監督と脚本の中村雅は最後の抜け道に出る「恋」をつかまえた。鮮度ベスト3は染谷将太、窪田正孝、そして宣伝で冷遇される藤岡麻美。シーンでも、染谷が何度も危機を逃れるところ。ヒロイン小西桜子が「生きてみる」となるのも、古い内野聖陽が詩的に救われるのも、オマケ以上。二時間を切る尺にこの詰め方。タランティーノの近作を褒めた人、どうする。
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