つつんで、ひらいての映画専門家レビュー一覧

つつんで、ひらいて

俵万智『サラダ記念日』をはじめ1万5千冊以上もの本を手掛け、40年以上にわたり日本のブックデザイン界をリードしてきた装幀家・菊地信義の仕事を約3年間追ったドキュメンタリー。デザインから印刷、製本に至る工程までを追い、ものづくりの原点を探る。監督は是枝裕和監督や西川美和監督のもとで監督助手を務め、「夜明け」で劇場長編映画デビューを果たした広瀬奈々子。菊地の仕事を通し、本をつくることを見つめていく。
  • 映画評論家

    川口敦子

    「敢えて残酷で皮肉な目線を加え、家族と師弟の美しい部分と、闇の部分の両面を見つめていきました。複雑な感情を紡いだ作品ですが、物語はとてもシンプルです」。劇映画デビュー作「夜明け」を語る監督広瀬の言葉はその前に撮っておきたかったというこのドキュメンタリーを貫く眼の清廉な厳しさと美しさとみごとに響き合う。それは「言葉を、目から手へ、そして心にとどける仕事」を究めてきた装幀者菊地の核心とも通じ、撮る者と撮られる者との照応のスリルの強度を思わせるのだ。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    これほど真剣に画面を凝視した映画は久しぶりだ。凝視するだけでなく、ほんとうに思わずスクリーンに手を伸ばして本の質感をたしかめたり、ページを繰ったりしてしまいそうになった。撮影、編集のリズム、音楽、すべてがつつましく題材にマッチし、紙上の静かなドラマがいつのまにか壮大なスペクタクルへと変貌を遂げている。そして最終的には、「他者との関係性」をめぐる問答へと行き着く今日性。装幀という専門領域にとどまらない豊かさをもった、アクチュアルな一作である。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    菊地信義の装幀が何をもたらしたのかも、呼応してきた時代的な美意識の変化も、簡単には語れない。それに怯まず、広瀬監督は作業と人を見つめる。最後の「達成感はない」まで、味ある言葉が、菊地自身と彼の関わる作家、編集者、弟子からも。人が、時運に乗って、いい仕事をするってこういうことだと納得させる。きれいに作りすぎているのと音楽の軽快感などで、いわば本の含む世界の「暗部」が切りすてられ気味なのに不満はあるが、それもエンディングの鈴木常吉の歌で緩和された。

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