映画専門家レビュー一覧

  • 酔うと化け物になる父がつらい

    映画評論家

    吉田広明

    ダメ人間ではあっても愛おしい存在として父を描けていたら少しは変わっていたのか。妻を宗教に走らせた末自殺に、娘をDV彼氏への依存症に追い込んだような存在が、死後に残した一言ですべて帳消し、いい人だったで終わっていいはずがない。父を分かってあげられなかった自分の方が化け物だったなど、殴らないでくれたDV夫に感謝するレベルの洗脳ではないか。確かに原作者にとってこれを描くことは救いだったにせよ、こんな異常を面白おかしく描こうとする映画の神経が分からない。

  • シェイクスピアの庭

    映画評論家

    小野寺系

    ケネス・ブラナー監督・主演作らしく、役者が前面に出る演劇的な作品で、しかも題材がシェイクスピアとくれば、熱がこもるはずだ。中盤で暗闇に灯るろうそくの灯を前に、イアン・マッケランとブラナーによる、バストショットの切り返しが行われる会話シーンで、10分もたせる箇所が圧巻。とはいえ、あまりに演技が前に出るため、これが映画作品であることの意義を考えてしまう。家族一人ひとりにフォーカスする葬儀のシーンは、よほど思い入れがないとつらいところがある。

  • シェイクスピアの庭

    映画評論家

    きさらぎ尚

    監督・主演のK・ブラナーをはじめ、出演者たちの顔ぶれからしても、撮るべき人が撮り、そのもとに演るべき俳優たちが集まった作品だと、まず。謎の多い人物の、断筆した最晩年に興味を募らせて見たのだが、年上妻との微妙な関係や子供たちとのぎくしゃくなど、俗事に悩まされる描写が面白い。思えば、こういう性格だからこそ人の心に分け入る悲劇、あるいは機微に通じる喜劇が書けたのだ。腑に落ちた。会話や挿話の要所にシェイクスピア作品を挿入した構成もファンには嬉しい。

  • シェイクスピアの庭

    映画評論家

    城定秀夫

    家庭を顧みなかった報いとして嫁のみならず娘にまで冷遇され、しょんぼり庭いじりしている晩年のシェイクスピアの姿には同情を禁じえないし、そんな針のムシロに耐えかね「誰のおかげで立派な家に住めてんだ!」と大人げなく逆ギレしてしまう気持ちも分かる……なんて身につまされながら観ていたので、家族が再生に向かってゆく終盤の展開には救われた気分になったし、無駄なカット割りを削いだ落ち着いた演出も好ましいが、近年濫作されているこの手の伝記モノには流石に食傷気味。

  • ジュディ 虹の彼方に

    映画評論家

    畑中佳樹

    ジュディ・ガーランドは20世紀の芸能界の至宝であって、レネー・ゼルウィガーがいくら頑張って物真似してもそれは到底ジュディではない。〈虹の彼方に〉を伝説のシャンソン歌手よろしく歌い崩しても貫祿不足は否めない。「アリー」のレディ・ガガはなんと性根のすわった歌唱を聞かせていたことか。少女期のジュディの大写しの顔で映画は始まるが、同時に映画が鼓動を始めるような、これは見事なショット。ジュディはクロースアップのまま歌い切ることができる希有の歌手だった。

  • ジュディ 虹の彼方に

    映画評論家

    石村加奈

    『オズの魔法使い』の訳者あとがきで柴田元幸氏は、ドロシーの魅力を、原作者にも通じる「アメリカ的価値」を体現した「明るい天真爛漫さ」と指摘したが、ガーランドも真摯なエンタテイナーだったのだろう(観客との間に愛が生まれたラストステージの感動!)。最後に引用される言葉は、映画版(39)でオズがブリキの木こりに言った台詞だが、心ない大人たちの呪いの言葉で、自分を信じる心を弱めた彼女の物語の結びには切なすぎる。優雅でもろいヒロインを、ゼルウィガーが繊細に表現。

  • ジュディ 虹の彼方に

    映画評論家

    佐々木誠

    冒頭から素晴らしく、ジュディ・ガーランドが生きているショービジネスという金と魔法が入り交じった混沌世界にすんなり入り込んでしまう。彼女の晩年、その数週間を切り取った作品だが、彼女の「47年の人生」が凝縮されている。レネーは、まさにジュディに憑依、ドキュメントと錯覚させるくらい真に迫っていた。中盤のゲイのカップルとの交流は、おそらくジュディがLGBTQの人たちのアイコンだったことからの創作だが、彼女の背景、そしてクライマックスに見事に繋がる。

  • 子どもたちをよろしく

    映画評論家

    川口敦子

    いじめ、自殺、家庭崩壊。中学生をめぐる問題を現場で吸い上げ発せられるメッセージが胸に刺さる。子どもたち以上に深刻な大人たちの問題。皮相的報道の問題(終幕の父の会見、一見、同情を呼ぶ存在の実相を映画は指し示す)。主題のそうした奥行を嚙みしめた上で、異母姉弟が動物園でつかう弁当の一景、その姉の身の振り方、どぶ川での一悶着を切りとる縦の構図等々、“普通の映画”としての見せ方、物語り方にも魅了された。蛇足ながら特別協力澤井信一郎監督の新作も待望する。

  • 子どもたちをよろしく

    映画評論家

    佐野享

    このような題材を扱った映画は必要であり、作り手たちの本気を疑うつもりもない。が、観ていてどうしても引っかかる。この残酷な現実、救いのなさをドラマに仕立てる際に、それを字義通りの残酷さ、救いのなさとして表現する手つきは、はたして当事者的な問答に根ざしたものだろうか。それはこの映画を「社会の闇」を描いた作品とする打ち出し方からも感じる疑問である。まず自分自身が他人事にしないという前提に立った場合、現時点で、僕は、この映画を評価することができない。

  • 子どもたちをよろしく

    映画評論家

    福間健二

    痛ましい二家族の話。始まって早々、ケン・ローチなら、あるいは城定秀夫なら、どうやるかと思ったりした。しかし中盤以降、引き込まれた。隅田監督と鍋島カメラマン。監督がうまく、撮影がよく、役者ががんばって、作品全体が歯を食いしばっているという感じに。川瀬、村上、有森は、文字通り「見ていたくない」部類の弱い大人。子の側の鎌滝、杉田、椿は、いざというとき、いい顔をして、いい声を出す。これほどやれるなら、真に対決すべきものへと思考を展開してほしかった。

  • 娘は戦場で生まれた

    映画評論家

    ヴィヴィアン佐藤

    アラブの春はSNSによって民主化がもたらされ、シリアもそのあとに続くのだろうと安易に思っていた。しかし化学兵器や、市民が犠牲になった空爆の悲惨な映像を目の当たりにした。4年も経てばその記憶も薄れてしまう。あの戦争では何が起きていたのか。女性、母親、妻、そして活動家という今までカメラを持つことのなかった種類の人物による映像は、優しく包み込むような、そして怒りや憎しみではない癒しの視線なのだ。我々の「知らなかった」という言葉さえ罪になるのだ。

  • 娘は戦場で生まれた

    映画評論家

    藤木TDC

    2016年、シリア内戦の激戦地アレッポで空爆に脅かされる病院を拠点に、医師たちの奮闘、そこで生まれ育つ子ども、破壊される市街などを市民の視点で生々しく記録する。目の前で起きる爆撃、血まみれの重傷者や死骸。命がけで撮られた凄絶な映像だ。監督はアサド政権とロシア軍を名指しで非難する。だがロシア報道では市街地に数千名いたとされる武装した自由シリア軍兵士の姿は写さず、アメリカやトルコの軍事支援にまったく触れない。意図的に伏せているならフェアではない。

  • 娘は戦場で生まれた

    映画評論家

    真魚八重子

    普通の生活を奪われ、命の危機に晒され続ける不条理の記録。その現場にいた者によるドキュメンタリーでしか写し得ない、爆撃の臨場感と、無造作に並べられた死体をただ見つめるどうしようもなさに圧倒される。あえて客観的であろうとしない当事者のカメラと語りは、一女性が遭遇する日常の損失を強調する。出産や遺体のショック映像に慣れはなく、常に驚愕や恐怖とともに眼前の光景に目を奪われているからこそ、戦争という無意味なものに巻き込まれる納得のいかなさが刺さる。

  • 初恋(2020)

    映画評論家

    川口敦子

    開巻直後にごろりと転がる人の頭部。どこが「さらば、バイオレンス」?! と戸惑う観客の胸ぐらを摑んでパルプなTOKYOノワールへ、暴力と笑いがきれきれに連なる一夜の狂騒へと引きずり込む。その凶暴な切れ味に三池印を刻むいっぽうでお務めを終えたやくざに黒社会の女刺客と、仁義をかざしてジャンルの規範を想起させる存在を輝かせ最初期タランティーノ映画とも通じる好ましさを召還する。昔気質へのそんな愛が「中国の鳥人」でこそ記憶したい監督+脚本コンビ最大の美点だろう。

  • 初恋(2020)

    映画評論家

    佐野享

    三池崇史監督の原点回帰を企図して好きなものを好きなように撮らせた結果、(少なくとも2010年代以降ではぶっちぎりの)最高傑作ができてしまった。寡黙なボクサー、仁義に厚い武闘派ヤクザ、知略家と思いきや間抜けな組織の裏切り者、暴走するキレ女といったステレオタイプ的なキャラクターが、三池作品が時に陥りがちな極端な戯画化演出の一歩手前で役者の身体性と融合し、すこぶる魅力的に躍動する。恋愛ならぬ共生のドラマとしても誠実で、優しいラストカットに思わず涙。

  • 初恋(2020)

    映画評論家

    福間健二

    二〇年前に出ていれば大傑作。まずそう思ったが、いまこれをやれるのもすごい。活劇映画のヴァイオレンス、どうするか。三池監督と脚本の中村雅は最後の抜け道に出る「恋」をつかまえた。鮮度ベスト3は染谷将太、窪田正孝、そして宣伝で冷遇される藤岡麻美。シーンでも、染谷が何度も危機を逃れるところ。ヒロイン小西桜子が「生きてみる」となるのも、古い内野聖陽が詩的に救われるのも、オマケ以上。二時間を切る尺にこの詰め方。タランティーノの近作を褒めた人、どうする。

  • 架空OL日記

    映画評論家

    須永貴子

    職場の平和と秩序を至上とするOLたちの、共感力と毒舌が混在する楽しいやりとりに紛れた鋭利な言葉にハッとする。たとえば、オフィスの空調を下げた社員Aについての、「今のうちらに必要なのは真実よりも矛先だから、Aを犯人ということにして、心ゆくまで悪口を言おう」という台詞。脚本を手掛けるバカリズムの人間に対する観察と冷徹な分析が、OLのキャラクターに落とし込まれ、日常会話に仕立てられている。ドラマ版を経たからか、役者たちのかけあいも心地良い。

  • 架空OL日記

    映画評論家

    山田耕大

    映画を観てると、時々他事を考えてしまう。退屈な映画だと尚更だが、これは他事を考えさせない稀有なもの。大きな出来事もサスペンスもアクションもなく、クライマックスすらないのに時間を忘れて観た。これは一つの偉業である。退屈な日常をちょっと面白くするヒントをもらった気がした。バカリズムという人の才気が人を幸せにする。が、彼が主演をしたことで、バラエティー色を強めている。普通に女優を主役にしていたら、どんな映画になっただろうかと観終わって思ったのだった。

  • 架空OL日記

    映画評論家

    吉田広明

    コントの数珠つなぎでは90分持つのかという危惧があったが杞憂で、挿話自体がドラマで一回練り上げられて面白いし、挿話の連鎖でキャラも立ち、同じ挿話の少しずれた反復など時間経過を利用するので一本の映画としてそれなりに持続している。男が演じるOLという主人公の立ち位置は絶妙で、男の視線から距離を持ってOLたちを見る対象化と、同じ女子としてあるあるネタに共感する同一化を同時に実現している。あまり映画として構えず、日常ものアニメの実写版のようにして見るべき。

  • エスケープ・ルーム(2019)

    映画評論家

    小野寺系

    映画としては、よくある“デスゲーム”ものの一種で、突出した特長はないが、ジャンル映画の枠のなかで丁寧に作られ、最後まで飽きさせない。ゲームジャンルとしての「脱出ゲーム」は、部屋全体を調べたり、暗号を解くため数字や記号とにらめっこしたりと、作業感が強くストレスがたまりやすいが、映画では全部出演者がやってくれてカタルシスも得られるので、とても楽! 部屋が主役なので、美術スタッフがここまで重要になる映画は珍しい。続篇もあるようなので楽しみだ。

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