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専門家レビュー一覧

  • いちごの唄

    吉田伊知郎 |映画評論家

    かつて野方のアパート暮らしで高円寺を徘徊していた身としては、よくぞこの道をと思うような細かな路地まで丹念にロケしていることに驚く。男の勝手な女性像の崇拝が気味悪かった「アイデン&ティティ」から15年以上経つと、同じ高円寺映画でも石橋静河は“私は女神じゃない”と否定するので溜飲を下げる。主人公のキャラに最初は戸惑うが、いつまでも子供っぽい男子と、実年齢以上に大人に見える女子の組み合わせとしては絶妙。優しさの押し売りになっていない作劇も心地いい。

  • いちごの唄

    評論家

    上野昴志

    主人公・コウタの饒舌に、胃もたれを起こした。いまどき珍しく純情で楽天的な青年という設定にしても、10年ぶりに会った憧れの人に向かって、あんなにベラベラ喋りまくるか。夕方出会った二人が別れるときは、夜もとっぷり暮れていたが、それまで、ラーメン屋にいたわけ? 彼の家族の和気藹々ぶりを示すためか、父親役の光石研までが、やたらボルテージの高い演技で暑苦しい。石橋静河演じるヒロインの不幸な生い立ちと対照させるためにしても、全体にもう少し抑えられないものか。

  • いちごの唄

    映画評論家

    上島春彦

    映画に描かれる若者があまりに子どもじみていて面食らうことがある。この主人公のキャラも意図的にそう。一緒に出てくる弟とその恋人の方がずっと大人である。だがその造形の意図が分からないのだ。こういうヒトがいてもいい、という感覚なのかな。彼のピュアネスが、頑ななもう一人の主人公の心をほぐす、という線で展開されるものの、普通につきあえば彼女もこんなに硬直的な反応にはならなかったのではないか。様々な謎が立て続けに解かれる作りだが謎の提示の仕方が上手くない。

  • ピア まちをつなぐもの

    評論家

    上野昴志

    大学病院勤めの医師が、病気になった父親のあとを継いで、しぶしぶ町医者になり、往診では上から目線の医師ぶりを発揮してケアマネとぶつかった段階で、あ、この男もいずれ地域医療の大切さを知って、患者第一に変わるなと予想がつき、物語はまさに、その通りに展開していくので驚きはないが、にもかかわらず、在宅医療の連携については勉強になり、再発したがん患者の終末につきそうところでは、思わず涙をこぼしてしまったので、★一つおまけしないわけにはいかなくなった。

  • ピア まちをつなぐもの

    映画評論家

    上島春彦

    有能な研究医が大学病院を辞め実家の町医者を継ぐ。終末医療や高齢者医療など地域の問題に根差した作りで、それが彼をプロフェッショナルに成長させるための具体的な試練になっている。この手の修業物は私の好みで星も伸びる。最初、彼の態度は一見不遜にも思えるが、彼なりの合理性からの行動だというのも観客にだけは分かる。彼の常識が一つ一つ打ち砕かれていく過程が秀逸。薬漬けの患者さんの件をかつての同級生の薬剤師に相談に行くあたりから物語がてきぱき流れ、とても良い。

  • ピア まちをつなぐもの

    映画評論家

    吉田伊知郎

    協力協賛に並ぶ医療関係のクレジットを見ると、古めかしいドラマとお涙頂戴が相場の在宅医療啓蒙映画かと思いそうになるが、きっちりと作り込まれたドラマを感情過多にならず、抑制された演出で手堅く見せる監督の手腕を感じさせる。若手医師細田の無機質な雰囲気が程よく、ケアマネの松本の突っ込み芝居を上手く受けたり、受け流したりする演技の配置も絶妙。それにしても、在宅介護で大量の薬を飲まされている父を見ていると、今やこんなテーマは他人事ではない身近さを覚える。 舞台で見れば面白いだろうと思うのは、客席とカラオケボックスが地続きの空間を醸成できると思わせるから。映画の場合、〈カラオケ〉は最も頻繁に用いられながら、誰が撮っても大差ない狭い空間にすぎない。それを映画的な空間にどう構築するか、演出の技倆が露わになる。別室と同時進行させたりするものの劇中の空間と客席の隙間は埋まることなく、他愛ない会話が本当に他愛なく見え、ハラスメント、マウントの取り合いが、ステレオタイプな描写に堕して見えてしまうのも残念。 原作もドラマも未見だが、連ドラ版と同時撮影されたせいか映画的なスケールには乏しく、SPドラマで良かったのでは。ぶっ飛んだ奇想を盛り込んでも学園内に限定させることで世界観を維持する点は良いとしても、それを補強し、リアリティを与える演技には疑問。子役出身者も含めた実力派若手俳優が揃っているので大仰な演技もこなせるが、浜辺以外は大仰になりすぎて緩急が利かず、延々と見せられて胸焼けしそうに。「麻雀放浪記2020」よりゲーム性を重視している点は良い。

  • あの日のオルガン

    評論家

    上野昴志

    小学生(当時は国民学校)の疎開は、身近に知っていたが、保育園児の疎開が実際にあったというのは、初めて知った。国が進めた学童疎開と違って、就学前の子供を自力で疎開させるということには、親の反対も含めて相当の抵抗があったと思う。それを推し進める戸田恵梨香演じる保母の厳しさと、子どもと一緒になって遊ぶ大原櫻子の無邪気さとの対照が、うまく効いている。総じて保母たちと子どもとの関係も自然でいいが、その裏面にある、親たちが東京で受けた戦争の表現が弱い。

  • 運び屋

    映画監督

    内藤誠

    イーストウッドの映画を見続けてきたものには、全篇、思い当たる所が多く、画面にひきつけられた。園芸にうつつをぬかして、家族をかえりみなかった老人を主演にすえるとは、脚本からして素晴らしいアイデアだ。彼が麻薬の運び人に利用されているとどこで気づき、また、悪事を反省しているのかどうかなど、はっきりさせない展開も、この主人公らしい。劇中の娘を実のアリソンが演じ、いろいろなエピソードもイーストウッドの私生活を反映しているようで、よくぞここまでやってくれたと思う。

  • 移動都市/モータル・エンジン

    翻訳家

    篠儀直子

    この奇想天外な世界を説得的に視覚化するのは相当な困難だと思えたがまあまあクリア。スター不在のキャスト(余計なお世話じゃ)でこれだけの製作費を回収するのは果てしなく難しそうだが、続篇のほうが面白くなりそうなので、できれば続けてほしいところ。いちいち機械的に回想シーンを入れる凡庸さは何とかしてほしいが、宮崎駿の活劇を思い出させられるところもあり、意外なことに正統派恋愛映画でもある。ヒロインを追う人造人間のキャラクターが、哀しみがあってなかなかいい。

  • ハッピー・デス・デイ 2U

    ライター

    平田裕介

    今度はタイムループだけでなく、パラレルワールドからも脱却するという二段構えのスリルを用意。コメディ色はかなり強くなり、発電所の大爆発を筆頭に見せ場も派手になっており、ヒロインをのぞく前作登場キャラクターの“パラレルぶり”も楽しくはある。しかし「1」同様にこちらの世界に残っても悪くはないという弱点がチラつくし、そこで葛藤させる展開にもさせているが、やはり盛り上がりには繋がらず。SFコメディにシフトして続きそうな気配だが、これで止めたほうがいい気が。

  • ハッピー・デス・デイ 2U

    映画監督

    内藤誠

    前作はスコット・ロブデルの脚本構成に感心したが、好評につき続篇となった「2U」はクリストファー・ランドン監督が脚本も書いて、タイム・ループものに、パラレル・ワールドのSF世界を加味している。イズラエル・ブルサードのルームメイトとして道化役に徹していたファイ・ヴが理工学生として量子学研究室で物語の鍵を握る人物を演じるのだが、前作でいい味を出したせいだろう。キャラクターに微妙な変化があってジェシカ・ロースもマジメになり、映画はいささか理屈っぽくなった。

  • ハッピー・デス・デイ 2U

    翻訳家

    篠儀直子

    何だかつじつまが合ってないところがいくつかある気がするがそこは目をつぶって、前作から続けて観ると馬鹿みたいに楽しい。1度目は悲劇でも2度目は笑劇だというあの言葉じゃないけれど、笑いの要素が爆走する今作は、まるで前作のパロディとして撮られたかのようだ。試練を経て並外れた度胸の持ち主となったヒロインはもはや何でも来い状態、意外な才能が開花するくだりには爆笑。並行世界だから演者がそれぞれ前作と違う顔を見せるのも面白く、人生についての苦く鋭い考察もあり。

  • ゴールデン・リバー

    ライター

    平田裕介

    殺し屋兄弟と化学式を握る者たちの追いつ追われつが展開するのかと思いきや、西部開拓時代が舞台のスローライフ称賛ドラマともいうべき意外にもノンビリした物語で、二組を描く配分もなんだかチグハグ。銃撃戦もあることにはあるがまったくもって派手ではない。それでも引き込まれるのは良い役者が揃い、各々がそれなりに魅せてくれるから。「ガルヴェストン」もそうだったが、フランス人監督がアメリカンな作品を撮ることで生じる良い意味での“ズレ”みたいなものは堪能できた。

  • ゴールデン・リバー

    映画監督

    内藤誠

    フランスのジャック・オーディアールが監督する新しい趣向の西部劇。遠くで拳銃の火花が散る冒頭の場面からスタイリッシュで、次々に予期せぬ事件があり、サスペンスもある。ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスの殺し屋兄弟がオレゴン一帯を取り仕切る提督に頼まれて、リズ・アーメッドを殺す旅に出る物語だが、せりふも文学的で、随所に笑わせるところもある。アーメッドは黄金を見分ける発明をした化学者でジェイク・ギレンホールがからみ、意外な展開を描く映像が秀逸だ。

  • ゴールデン・リバー

    翻訳家

    篠儀直子

    西部劇なのにガンアクションを、というよりもアクション自体を撮ることをすべて回避している不思議な映画で、描かれるのは、つかの間の桃源郷を折り返し点として、追跡し、追跡される者たちの魂の軌跡。彼らの桃源郷は、暴力的な父権を(および、もしかしたら女たちをも)排除したところにある。ジョン・C・ライリー好演。近年の西部劇映画には珍しい豊かな色彩で描かれる西部の生活と自然(ただしロケ地はヨーロッパ)が目に楽しく、デスプラの個性的なスコアが抜群にかっこいい。

  • 無双の鉄拳

    ライター

    平田裕介

    まずは敵の設定が見事。どこまでも異常で卑怯で冷酷なコイツにとことん振り回されるからこそ、中盤からの追撃が否応なく盛り上がる。マ・ドンソクが繰り出す肉弾戦も、ステゴロによる雑魚どものなぎ倒し、武術の心得があるらしきキッカーとの対峙、同じような巨漢とのハイパワーな激突とバラエティに富んでいる。さらに、妻に叱られてしょげるドンソク、ウキウキで彼女にケーキを運ぶドンソクといった具合に猛って暴れ回る以外の姿も拝めてキュンとさせてくれるのも文句なし!

  • 無双の鉄拳

    映画監督

    内藤誠

    大きな体で頼りがいのあるマ・ドンソクが突然、正義のために爆発して、怒りの鉄拳をふるうのを期待して見るわけだが、今回は愛妻ソン・ジヒョと平穏な生活を送ろうとして魚市場で働いているところからはじまる。韓国の要請でWTOが日本の水産物規制を容認したばかりなので、つい画面に見入ってしまう。ひねくれた悪役を怪演するキム・ソンオが整形した美人を富裕層に売る組織の話といい、キム・ミンホ監督は時局的ネタにも気配り。笑いとカーアクションもあり、大サービス。

  • 無双の鉄拳

    翻訳家

    篠儀直子 |篠儀直

    もちろんマ・ドンソクの重量感あふれるアクションが最大の見どころだが、あまり見たことのないタイプの悪役が造形されているのも注目すべき点。一方、往年の日本映画を奇妙に想起させる肌触りがあって、とても不思議な感慨を覚えた。大暴れのコメディリリーフ二人は、昭和日本の喜劇映画に見られるノリを思わせるし、登場人物の誰それがブチ切れたとかを飛び越えて、もはや映画自体がブチ切れているかのようなクライマックスは、70年代東映アクションのいくつかに通じる面白さがある。

  • ハッピー・デス・デイ

    映画監督

    内藤誠

    ヒロインの女子大生を演じるジェシカ・ロースが可愛さのなかに、バカっぽい表情をしのばせて熱演。彼女をとりまく校内の人間関係もリアルで、青春映画らしく笑わせる。ジェシカは酒に酔って男子学生イズラエル・ブルサードの部屋に泊まり、繰り返し悪夢を見るというタイムループものになっていくのだが、この実験的ともいえる手法が娯楽映画としてはよく考えられていて面白い。それには連続殺人鬼がかぶっているベビー・フェイスのマスクの無気味でおかしいデザインの力もある。

  • ハッピー・デス・デイ

    翻訳家

    篠儀直子

    ループの開始前から、つまり面白いところが始まる前から、男子学生の部屋を飛び出したヒロインがキャンパスを歩く姿を観るだけで、きらきらと躍動する画面に、これは絶対楽しい映画になるぞという予感でわくわくする。実際、驚かせたりはらはらさせたり、笑わせたり泣かせたりのギアチェンジにほとんどよどみがなく、画面が的確にヒロインの心理を伝えているのも、最低のビッチだった彼女が生まれ変わっていく過程も最高に素敵だ。ジェシカ・ロースがさまざまな面を見せてとてもいい。

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