「もし、あなたなら 6つの視線」のストーリー
「彼女の重さ」とある女子商業高校。3年生ともなると、教師は就職のため容姿に磨きをかけるよう生徒たちを叱咤激励する。あるものは美容整形に走り、あるものはダイエットに励む。より美しくスマートに見えるようあらゆる努力をする生徒たち。そんなクラスの中にいるソンギョンは特に可愛くもない、ちょっと太めの女の子だ。ソンギョンも二重まぶたの整形手術を受けたいし、断食道場にも通いたいのだが、母親は無関心だ。ソンギョンは悩んだ末、二重の手術を受けるために、危険な決断をする…。「その男、事情あり」近未来。その四角いマンションの真ん中にはすべての部屋が見渡せる吹き抜けのスペースがあり、住人たちが互いの行動を監視できるようになっている。各階の白い壁にはいろんな道徳的標語が書かれ、無機的な空間を彩っている。そのマンションにひっそりと住んでいるA氏。彼は最近インターネットの性犯罪者公表サイトで犯罪者として名前が掲載された。まわりの住人は彼を無視するが、ただ一人おねしょ少年だけが彼に関心を持っている。ある日、母親はおねしょの罰として少年をパンツなしで外に放り出し、近所の住民から塩をもらってくるように命じるが…。「大陸横断」この短編は、脳性麻痺という重い障害を抱えるキム・ムンジュの日常生活を11のエピソードで描いている。就職に必要な履歴書用の写真をセルフ・ポートで撮るため、しかめっ面をしてみせる《履歴書》。やっとドアから外に出られたのに、彼が家の中に入ろうとしているとカン違いした近所の人から、親切にも家の中に入れられてしまう《18年ぶりの外出》。親族の慶弔事には留守番させられる彼の気持ちに家族さえ気づかない《婚約パーティ》。階段を車椅子専用リフトで上げられる間の何とも言えない数分間《音楽鑑賞時間》。好きな女性に告白できない《この気持ち分かってくれる?》。友人と障害の問題について突っ込んだ話をする《友達》など。最後のエピソード≪大陸横断≫で彼は、障害者の権利のためにデモをして刑務所に入れられた友人のことを考えながら、光化門の交差点を突っ切ろうとする。「神秘的な英語の国」1999年の冬、ソウルにある名門英語幼稚園でクリスマス会が開かれている。6歳のジョンウは両親の期待にこたえ、英語の発表会で上手に歌っている。だが、ジョンウの母親は少しがっかりしたようだ。息子の発音が他のネイティブの子どもほど完璧ではなかったからだ。それから3年後、ジョンウは小児歯科の手術台の上に横たわっていた。痛みは避けられないが、RとLの発音が上手になるよう手術が行われた。母親が期待したようにジョンウの未来は輝かしく、素晴らしいものになるのだろうか?「顔の価値」ソウルのどこか。葬儀場の駐車場で料金所の女性係員と男性ドライバーとのあいだで諍いが起こる。接客態度のなっていない美人係員に対して、ドライバーが「その顔なら、他にも仕事はいくらでもあると思っているんだろう」と言ったことから、相手を不快にさせる言葉のやり取りが<顔の価値>に関する激しい口論へとエスカレートしていく。そして、ドライバーが駐車場から出るやいなや見たものは…。「N.E.P.A.L. 平和と愛は終わらない」1990年代のソウル。ネパール人女性チャンドラ・クマリ・グルンは、働いている工場近くの食堂でラーメンを食べたが、食べ終えて財布を持っていないことに気づいた。食堂の主人は警察を呼んで無銭飲食で彼女を訴えた。警察は、韓国人そっくりの顔つきで、つたない韓国語を操る彼女のことを、精神障害者だと思いこみ、その後、チャンドラは6年4ヶ月もの間、精神病院などをたらい回しにされた。看護婦はネパール語は精神障害者のしゃべる韓国語に聞こえるといい、何年もしてやっと彼女の言葉を解する人が現れるまで放って置かれたのである。現在チャンドラさんは生まれ故郷ネパールに帰っている。