「歌う密使」のストーリー

フェルディナンド7世がスペイン国王として初めて首都に入場した1808年、マドリッドの著名なカフェーの踊り子で「蛍」と呼ばれ、美貌と美声をうたわれた女性がいた。彼女の賛美者には多くのフランス将校があった。その一人エチエンヌはド・メリート侯爵が彼女に贈った花束を見て嫉妬に燃え、相手を殺すといきまくので、ニナはその場に居合わせた若者ドン・ディエゴを恋人であるかのごとく装ったので、エチエンヌが彼に決闘を申し込んでいる間にその場を逃れた。ニナはその実スペインの間諜であった。当時サベリイ将軍はナポレオンの使命を帯びて、フェルディナンド国王をバイヨンヌ会議に招請した。ニナは自分に集まるフランス将校を誘惑してナポレオンの政策を探ろうとしていたのである。次の日、彼女は使命を帯びてバイヨンヌへ行くことになった。ところが彼女の馬車を追って来たのは昨夜の恋を本当と信じたドン・ディエゴだった。彼女はナポレオンの参謀ド・ルウジュモン大佐を誘惑してナポレオンの弟ジョゼフをスペイン王位につかせんとする仏軍の奸計を探知したので、伝書鳩を利用して通信しようとしたが、鳩は何者かにすり替えられていた。止むなく彼女は自分に付きまとうドン・ディエゴに密書を依託した。しかるに以外にもドン・ディエゴはフランスのスパイだったのである。ニナは幸い各省を握られなかったので国外追放の命令だけで済んだが、いつのまにかドンを愛するようになっていた彼女は恋人が敵の将校であったことを知って心に深い痛手を受けた。それから5ヵ年間、フェルディナンドを助ける英軍と、ジョゼフを押す仏軍の戦争でスペイン全国は沸き返った。ニナは再びスパイとなって往時の大佐、今はド・ルウジュモン将軍に出世した彼を篭落して機密を盗みだしたが発見され、ドン・ディエゴ実はフランソワ・アンドレ大尉に引き渡された。大尉は不思議な運命に驚きながらニナを投獄し、仏軍は直ちに作戦を変更したがその効なく英軍に虚を突かれて惨敗し、スペインは救われた。獄中から救い出されたニナは傷けるドン・ディエゴを野戦病院に訪れ、今は敵味方もない二人は永い将来の契りを結んだ。