「浮世を茶にして」のストーリー

ブライアム・ファールという英国の名高い芸術家はこの上もなく社会の称讚とか人の世の恋愛沙汰を忌み嫌う変屈者であった。彼が永年留守にした故郷の家に帰ってみると、己が家の召使いが病気で死んでしまったが、彼はこれを幸いとして召使いの死を己れの死に仕立て社会に発表し、自分が召使いに成りすまして、自分の葬式に臨んで飛んだしくじりをやって式場から追い出されるまでの思い切った狂言をやった。彼はかくして社会の御追従などの繁雑を逃れ得たが、さすがに恋愛沙汰では彼も否み得るほどの非人間的ではなく、かつて結婚媒介所の世話で死んだ本物の召使いが恋人としていたある女に、これは偽りならず心惹かれ、2人は恋の甘さに酔うようになった。社会を避けて己が美術の道を歩む中に、彼の世の常ならぬ仮面もやがて剥げずにはいなかったのである。