「インスピレーション」のストーリー

イヴォンヌは巴里で名高いモデル女であった。彼女は美しい容姿を持っているばかりでなく理智に富んだ聡明な近代的な女性で、彫刻家のクウタン、画家ジュウベ、詩人ギャラン等のモデルとしてポーズするとともに肉体的交渉をも許すだけの自由思想の持ち主であったが、現在の彼女は彼らの芸術家的な利己主義の愛情に飽き足りなかったので、クウタンが仕切りに愛の復活を迫っても相手にしなかった。巨万の富を擁してボヘミアンな漁色生活をしているデルヴァルは一夜宴を張った。イヴォンヌの美しさはモデル女仲間のオデットが激しく嫉視し、デルヴァルの新しい情婦リアヌが賛美しないではいられぬ程素晴らしかった。席上、社交馴れない様子の一青年が自分に燃えるような視線を浴びせているのを感じたイヴォンヌはその純真さに少なからず心を動かされ、件の青年アンドレ・モンテルと近づきになり、宴半ばに相携えて立ち去った。2人は夜中パリの街を馬車で散歩し明け方にアンドレの下宿に帰った。2人は熱愛し合う仲となった。アンドレは孤児で伯父夫婦の後見でパリ大学の経済学部に籍を置く貧乏書生だった。イヴォンヌがヴィニョオというパトロンを持つ身であることを知ったアンドレは侮辱を感じて関係を絶とうとしたが、彼女がヴィニョオと縁を切ってしまったのと、2人の愛の熱情とが2人を元通りの仲とした。イヴォンヌはパトロンを失ったので再びモデル台に立つこととなり、クウタンの為にポーズすることとなる。彼女が昔の生活にもどったのを喜んでクウサンのアトリエには大勢友達が集まった。イヴォンヌに会いにきたアンドレの姿を見ると、イヴォンヌのためにモデルの地位を奪われたオデットは嫉妬と憤懣に駆られて、イヴォンヌの過去の情事を洗いざらいアンドレにぶちまけてしまった。イヴォンヌがそれを否定しないのを見たアンドレは純情を深く傷つけれられて去る。イヴォンヌは生まれて初めての真剣な愛を失って悲痛の極、モデルもやめて路頭に迷う。偶然邂逅したアンドレは彼女の窮乏を見るに忍びずパリを離れた片田舎に家を借りて彼女を住まわせる。しかしアンドレの伯父は甥に相応しい花嫁を持たせることになったので1日アンドレはイヴォンヌを離れて離別する。ところがデルヴァルに飽きられて捨てられたリアヌは高層から舗道に身を投げて自殺したことを知ったアンドレはイヴォンヌも自殺しはせぬかと恐れて訪れる。その時にはイヴォンヌのため罪を侵して入獄していたノルマンが出獄して訪れていた。アンドレは伯父が選んだ娘との結婚をやめてイヴォンヌと南米へでも行って暮らそうと誓った。しかしイヴォンヌは身をひく事がアンドレを愛する道と悟って、置き手紙をしてノルマンの許へ赴いたのである。