「生きていた男」のストーリー

スペインのコスタ・リカに住むキム・プレスコット(アン・バクスター)は、富豪で美貌の主の女性として知られていた。ある夜晩餐会の終ったあとの庭園で、彼女は、いつのまに入ってきたのか、1人の男が勝手にウィスキーを飲んでいるのを発見した。その男は、1年前に自動車事故で死んだ筈の彼女の兄ワード(リチャード・トッド)だと名乗るのである。兄は確かにあの時死んでいるのに……彼女は愕然とした。警察署長パルガス(ハーバート・ロム)がやってきて訊問したが、証明書類や旅券も、手首にある錨の刺青さえもまさしく兄ワードのものなのだ。青ざめたキムをよそに、明くる日から彼は富豪プレスコット家のワードとして振る舞いはじめた。素性の知れぬ家政婦や下男が雇い入れられた。何のための彼の行動か。かつて兄が4マイルのドライヴ・ウェイを3分で走ったことを思い出して、それが出来るかと挑戦すれば、湾に沿った危険な道を、彼はキムをオープン・カーにのせて疾走してみせる。頼りにしていた叔父チャンドラーさえが、甥として彼に疑念なく挨拶するのだ。彼女は父が遺していった巨額の宝石を持っていた。それをこの男たちは狙っているのに違いない。心身ともに疲れ果てた彼女は、宝石を銀行から取り出せる手続きの書類に、謎の男の命ずるままに署名した。これでもう彼等は去っていくに違いない。ところが海岸ぞいの艇庫で放心する彼女に、なおも人影が迫る。恐怖のあまり発射した銛銃を危うく避けて灯の下に現われたのはパルガス署長だった。彼は、謎の男が指紋まで死んだ兄に似せられる筈はないと言う。苦心の末彼女はワードを自称する男の指紋をブランディ・グラスにとった。ところが、それさえが亡き兄と同じものだと署長はいうのだ。遂に彼女は狂乱状態におちいり、自失して叫んだ、--違う、彼が兄である筈なんかない。何故って、兄は私がこの手で殺したのだから……。謎の男たちは互いにうなずきあった。父の遺した宝石、それは正当には、今は彼女の権利を離れている会社のものだったのだ。それを彼女は艇庫の煙突になおも隠して持っていた。兄を名乗る男たちは、実は実際のワードの死因に疑問をもち、この宝石の行方を探る警察当局の人々だったのだ。