「ジーキル博士とハイド氏(1932)」のストーリー

ジーキル博士は人間の凶悪な性質を薬物の力で除去し得るという学説を立て、堅い信念のもとに日夜研究に没頭している若き篤学者だった。博士はそのために許嫁マリエル嬢との晩餐の約束さえ忘れることが再々なので、嬢の父カルウ将軍は立腹してとうとう娘を自宅に連れ戻してしまった。博士は友人のランヤン博士にやがて自分の学説の正しいことを納得させ得る研究の完成が近づいたことを信じながら、相変わらず研究室に閉じ込もって熱心に実験を続けているうち偶然、彼の目的とは正反対の結果を招く。即ち人間の性質から「善」を取り去り、「悪」のみを残すという薬物を発見し、異常の興味に駆られてこれを服用した所、忽ち彼の端麗温厚な容貌は一変して醜怪凶悪なハイドの姿と変わった。ハイドは喜び勇んで研究室の裏口から罪悪を漁りに巷に飛び出した。数回こうして転身を繰り返すうち博士の身体に宿る「悪」の本質が次第に台頭して来た。博士は自分がハイドとして罪悪に対する欲望を禁じ得なくなったことを悟ってこれを抑制しようと努めたが彼の意志はこの大きな誘惑の前には余りに無力だった。斯くしてハイドの残忍性は益々悪化し、ついにある日かつて彼が開業医ジーキル博士として診察したことのある売春婦アイヴィーを殺してしまった。博士は自分の秘密に悩んだ挙句、許嫁マリエルの家を訪れたが、婚約を取り消されて悄然として我家に帰る途中、彼の心中に突如ハイドの性格が台頭して来た。そこで博士はハイドに姿を変じてマリエルの家に引き返した。そして嬢の悲鳴を聞いて駆けつけた父将軍をハイドはステッキで殴りつけ、倒れたところを更に足蹴りにさえした。急を聞いて駆けつけた警官はハイドを追跡して彼が逃込んだジーキル博士の研究室を包囲した。研究室に飛び込んだハイドは還元剤を呷った。警官が踏み込んだ時にはハイドの姿はなく、ジーキル博士が笑顔で彼等を迎えた。折しもそこに来合わせたランヤン博士はジーキル博士とハイドとは同一人だと警官に告げた。その時ジーキル博士は苦悶の表情をしたかと見る間に忽ちハイドの相を現し、ナイフを閃かしてランヤン博士に飛びかかったが警官に射殺された。警官は呆気にとられて、ただそこに倒れている不可解なジーキル博士の死体を見つめているばかりだった。