「シンガポール航路」のストーリー

セイロン島のコータへ帰航中の船に乗っていたヒュー・ドールトリーは女との事件のためにクラブ員たることを除名され家財は納税遅延のため競売に付せられかけていた。同船したフィリッパ・クロスビーはコータのジョージ・マーチ医師のもとへ行くはずだったがドールトリーに会う。船中ではおもしろく思っていなかったが上陸の際折りあしく土砂降りになった熱帯特有の豪雨のため計らずもドールトリーの世話になる。帰って来たドールトリーは納税を完了し再びクラブに編入せられるがフィリッパがマーチ医師に結婚してからも交際を続けている。マーチ医師の妹のルネは18の小娘であったがドールトリーに思いを寄せている。が彼を極端に嫌うマーチ医師はルネが兄の誕生日に晩餐に招待しようとしたことに反対し一悶着起きる。熱帯の夜は原住民の打ちはやす祭の太鼓の音と共に妙に悩ましく更けてゆく。ロマンスを望んだルネはドールトリーの関心を引こうとしたが無効に終わった。マーチ医師は患者をコロンボに連れて行くのにルネも共に連れて行く。ドールトリーはフィリッパを先日の誕生日の招待のお返しに晩餐に招く。もとより拒むべくもないのでフィリッパは承諾する。患者がその甲斐もなく急死したのでマーチ医師はルネと帰宅したが、そこにドールトリーの招待状を発見し激怒して彼のバンガロウに向かう。一方ドールトリーのところでは夜も更けたので彼は寝室へ単独で退く。そしてフィリッパには彼女の室の鍵を渡しておいたドールトリーは固く身を持してそして彼自身が信ずべからざる男であり、また悪評の的であることを述懐し語ったがフィリッパは彼女の将来の幸福のために彼女の望みを捨てることを肯んじなかった。激怒したマーチ医師が到着した時ドールトリーはフィリッパの来訪を否認するが彼女は決心の末、出てきてドールトリーは指一本だに触れなかったのみ剰へ彼女を強くはねつけたことを詳説し彼女がいままで余りにマーチ医師から疎かにされていたことを告白し決然この際離婚して、たとドールトリーがついて来ようが来まいが一人でシンガポールへ渡航する旨を言う。マーチ医師は憤怒の余りドールトリーを狙撃しようとするが一切を告白して安堵しつつ悠々と身仕舞いをしてフィリッパの後を追おおうとする彼を見ては元気も失せ果て引金の指が鈍ってしまったのであった。