「白い蘭」のストーリー

ヴィクトリア王朝華やかなりし19世紀の末朝ロンドン・ウインポール街に居を定むるバレット一家の上には陰鬱な日が続いた。当主エドワードの峻厳な性格と長女エリザベスの病弱とがその原因の主なるものであった。長年病床にあるエリザベスには何等生への執着は無かったがその情熱は詩によって発揮された。そうして当時詩壇で売出しの青年詩人ロバート・ブラウニングとの文通が僅かに生の慰めであった。父エドワード・バレットは信心深く且つ奇癖とも称するべき峻厳さで多勢の伜や娘らを扱ったが、就中エリザベスに対する偏愛は異常なものであった。彼は長女をイタリアへ転地させよという医師の勧告を一言の下に退けた。エリザベスを手放す事は彼には想像も出来ぬ不可能事だった。詩と文通によって結ばれたエリザベスとロバートがついに対面の機会が来た。詩人同士の情熱は燃えて火となり恋となった。「恋」を知ったエリザベスの身内には再び生への憧憬がわき健康は日増しに回復した。それを喜んだのはロバートであり、喜ばぬのはちちエドワードだった。エリザベスの病気回復はやがて彼女を自分の手から放さねばならぬ前提だったからである。エリザベスが父に対する愛情は父の我執、奇嬌、暴力、残虐の性格を知るに連れて恐怖と変わっていった。と同時にロバートの情熱と献身的な愛とは彼女の心に初めて人間的な温かさと明るさをもたらし、永遠に変わらぬ心の愛が生まれた。彼女はついに父を捨てて愛人に走った。陰鬱なウィンポール街の邸を去って2人に明るい南欧の旅が前途に待っていた。