「砂上の摩天楼」のストーリー

1871年のシカゴ大火の直後、この街へはるばるやってきた1組の若夫婦があった。それは家屋敷を金に替え、この都で一旗挙げようとするダニエル・バードウェイとその貞淑な妻アビゲイルだった。2人は古い貸馬廐を借受けて雑貨店を始めたが、アビゲイルは4人目の子供フレディーを産み落して産後の日達が悪く他界してしまう。最愛の妻を失ったダニエルは4人の子供を愛育することに献身の努力を続け、息子3人は彼自身に劣らぬ実業家にし、1人の娘は亡き妻アビゲイルの如き貞淑な女性となすことを目的とした。かくて子供達が1人前に成人した時分はダニエル・バードウェイは大百貨店主としてシカゴでも1流の実業家となっていた。ところが子供たちは富裕な安逸な生活が災いして、長男ジーンは忌まわしい情痴の殺人事件に関係して父の名を汚し、次男バートは無気力な能なし坊ちゃんに過ぎず、娘フォーブは常に桃色新聞の噂の中心となり、末っ子のフレディーは厭世哲学にかぶれて放浪児となってしまった。子供たちに期待する所大であったダニエルには、これは堪えがたい失望であった。しかも子供たちは父からもらった店の株を全部老番頭のウルマンに売り渡してしまっていた。子供たちに譲ることを唯一の目的として築き上げた大百貨店が、この半ばは他人のウルマンの所有にきしていることを知った時、ダニエルはあまりのことに卒倒し、遂に病床の人となった。彼の生命の支え柱であった子供たちが、もろくも砕け潰れ差って、店の床の上の塵芥の用に掃き捨てられたのだ。ダニエル・バードウェイは悲痛の裡に世を去った。半年以内に自分の後を立派に継ぐものがなければ、店はウルマンのものだぞ、との遺言を残して。死の床にある父の魂は末っ子フレディーの胸に再び生きた。彼は青年時代の如く雄々しく起こって戦ったのである。