「最後の抱擁(1939)」のストーリー

ニューヨークの庶民街のあるレストランで働いているヘレンは、初めて来た客のフィリップという外国人を、初めは怪しい男だと思っていたが、間もなく2人は打解けて話すようになった。そして1日彼女はフィリップに誘われ、ヨットに乗って海上に遊んだ。舟の上で語るうちに、フィリップは後3日すればパリへ帰らねばならない人だということが判る。静かな海が急に荒れて来たので、2人は陸へ上った。ヘレンが連れて行かれた家は、フィリップの所有する家であったが、そこで彼女はフィリップは有名なフランスのピアニストであることを初めて知った。彼に送られて帰る途中、風はいよいよ激しく、雨はますます降りしきって、道路は交通途絶になった。ヘレンとフィリップは誰もいない小さな教会の中へ、ひとまず避難した。嵐と洪水と津波さえ起って2人はとうとう教会に閉じこめられたまま一歩も外へ出られなくなった。ヘレンは、もう2人とも命は助からないのではないかと思った。かよわい女だけに、決心のつくのも早かったのであろう。ヘレンはフィリップを愛していると打明けた。彼は何か言おうとしたが、最後の時を幸せに過すため、ヘレンは何も聞きたくないとそれを断った。しかし次の朝になって、2人は救護にかけつけた人々のために救われた。ヘレンはこの時フィリップから妻があることを聞かされ、1人でニューヨークのバスに乗ったが、昨日の嵐が交通が途絶して立往生になった時、フィリップが自動車で連れに来た。そうして彼女はフィリップの妻マデリンと彼女の母デュラン夫人と顔を合せたのだった。マデリンの顔色に何かただならぬものを感じたヘレンは、後で自分のアパートに帰った時、フィリップの口から妻は子供を死産して以来時々精神を乱すようになり、それは段々ひどくなるばかりだと聞かされた。フィリップが別れて帰ってみるとマデリンはどこかへ姿をくらましていた。マデリンは1人でヘレンを訪れたのである。脅したり泣いたりして、彼女はヘレンにフィリップを諦めてくれと言うのだった。フィリップがパリへ立つ夜、彼はヘレンを同伴しようと言うが、マデリンの哀れな有様に心を打たれた彼女は、2人は友たちのままで別れましょうと静かに辞退した。そして恐らくもう2度とは逢えないフィリップの後姿を、ヘレンは涙にくれて何時までも見送った。