「化粧師 KEWAISHI」のストーリー

大正初期の東京・下町に、少しばかり偏屈な小三馬という化粧師がいた。客の中心は一部の上流階級の女性や芸者たちであったが、抜群の腕の彼に化粧して貰うといいことがあるとの評判を得ていた為、人生の一歩を踏み出そうとするその他の女たちも彼の元を訪れることしばしばだった。ある日、呉服店の女将・三津森鶴子の化粧をしに行った小三馬は、そこで非識字者の下働き・時子と出会う。彼女の夢は、字が読めるようになり、深川の大火で焼け出されバラック生活を送る子供たちに本を読んで聞かせてあげること。それを知った小三馬は、彼女に字の練習本を贈ってやる。そして、その甲斐あって字を覚えた時子は夢を叶えるも、その時、バラックに立ち退き命令が下り、役人による強制執行が行われてしまう。仲間を助ける為、執行書を奪って小三馬の元に逃げ込む時子。小三馬は、そんな彼女に化粧を施し変装させ、追っ手の目を欺くのだった。しかし、小三馬に秘かな思いを寄せながら、別の男と結婚することになった天麩羅屋の娘・純江の婚礼の日、彼女に化粧をしてやった小三馬に官憲の手が迫る。それを救ったのは、純江と彼女の父親だった。だが図らずもその騒動の最中、小三馬が耳が聞こえないことが明らかになってしまう。実は、彼は幼い時、鉱毒によって聴覚を失っていたのだ。彼が偏屈に見えたのも、それが原因だった。それから数日後、時子が女優抜擢試験を受けることになった。申し込みの写真を撮るという彼女に、小三馬はとっておきの化粧をしてやる。