「屋根裏の散歩者(1992)」のストーリー

1920年代の東京。遊民宿の東栄館に住む郷田三郎は定職につかず退屈な日々を送っていたが、ある日、押し入れの中で天井板がはずれることを発見し、そこから屋根裏に上り、徘徊を始めた。所々にある節穴を通して、バイオリンを弾く清楚なお嬢様・煕子(ひろこ)の様子や、妾の和枝を荒縄で縛り、その姿態を和紙に描く弁護士・越塚、複数の男と痴態を重ねる奈々子、下宿人の部屋に忍び込んでは小銭を盗んでいる女中の珠代など、様々な下宿人たちの姿が見え、郷田は日常からは想像も出来ない彼らの本性を覗き見るという禁断の楽しみを覚えた。だが彼はそれにもすぐに飽き、ふと女との心中話をいつも自慢しているニヒルな歯科医・遠藤が眠っている時、その大口にモルヒネの溶液を垂らすという犯罪を思い立ち、実行した。事は見事に運び、遠藤は死ぬが、郷田は動揺のあまりモルヒネの瓶を遠藤の部屋に落としてくるのを忘れ、再び屋根裏へ。瓶を落とした時突然遠藤の部屋の目覚まし時計が鳴り、郷田は泣き出しそうな思いで慌てて部屋に戻る。密室での出来事であったため事件は自殺として処理されたが、ただ一人、同じ下宿の一階に住む明智小五郎だけが、自殺する人間が目覚まし時計をセットするはずがないと疑問を抱いた。そして明智は郷田が事件以来パッタリと煙草を吸わなくなったのもヒントとなり、屋根裏のからくりと彼の犯罪に気づく。だがそれを警察に告げるのは彼の興味の中にはなかった。明智に真相を暴かれた郷田は、ただ呆然と煙草をくゆらすのであった。