「結婚五年目(パーム・ビーチ・ストーリー)」のストーリー

ジェリーは発明家のトム・ジェファーズと結婚して5年になる。もちろん夫婦は飽きも飽かれるかもしない仲であるが、トムの発明が一向に金を作らないのが悩みの種だ。トムのすばらしい発明『空中エア・ボート』も出資する資本家が見つからないので、宝の持ち腐れである。5年目の結婚記念日、さてお祝いどころか家賃を払うにも、ジェファーズの財布には10セントもない。そこでジェリーはトムを助けるためには彼女が彼の妻であるよりも妹であった方が好都合なりと考え、フロリダへ行ってとりあえず離婚しようと決心する。彼女はビタ一文も持たずに、パーム・ビーチ行き特急に乗込む。目ざとい彼女は最後部の客車がタダゴトでないのを見抜いて、行ってみると果たせるかなそれは貸切車である。お客は陽気なお年寄りばかり、聞くとエイル・アンド・クェイル・クラブ総動員で、フロリダへ年例大会をしに出かけるところであった。うるさい山の神は御免だが、美しい年増女の笑顔なら、枯木に花の風情じゃと、ジェリーはクラブのマスコットに採用される。有難いといったんは喜んだが、年寄達のハメのはずし方が度をすぎている上にしつこいので彼女も辟易して席をはずす。隣の寝台車に乗り移ると上段の寝台が一つ空いている。無断ですべり込んでひと眠りしようとしたはずみに下段の客の顔をふみつけてしまった。その顔の持主はなんと、J・D・ハッケンサッカー3世と言う世界一の金持独身者であった。氏はこの椿事をはなはだ喜び、ジェリーに親切をつくす。そうこうしているうちに、例の老年クラブの車両は、余りに騒々しすぎるというので、ジェリーのトランクともどもある駅で切り離されてしまった。そこでジャクスンヴィルに停車中、ハッケンサッカー氏はジェリーを伴って、彼女に衣類を5万6千ドルばかり買って進呈した。その間に列車は出てしまったので、氏は自家用ヨットに彼女を招待して海路のどかにパーム・ビーチに向うことにした。波止場に着くとトム・ジェファーズが容易ならぬ面持ちで待っている。気まぐれな金持ち爺さんが発明家に寄付金をくれたので、トムは飛行機で先着していた次第。ジェリーは機転をきかせて、ハッケン氏に『これは兄です』と紹介したので、トムは怒るに怒れない。するとハッケン氏の姉で、結婚離婚数レコード保持者の公爵夫人センティミラが大喜びでトムと結婚したがる。それはまだ我慢するが、ハッケン氏が彼の『妹』にじゃれつくのがたまらない。一騒動もち上がるところにトムの双子の兄とジェリーの双子の妹が現われ、一切円満に片付いたというお話。