「書を捨てよ町へ出よう」のストーリー

“映画の中には、何もないのだ。さあ、外の空気を吸いに出てゆきたまえ”というセリフでこの映画は始まる。主人公の「私」の名前は北村勝。しかし誰も私の名を知らない。月給二万八千円のプレス工の「私」は、ときどき人力飛行機で空を飛ぶ幻想にひたる。「私」の家族は五年前に一家そろって家出してきた。万引きぐせのあるおばあちゃん。もと陸軍上等兵、もと屋台ラーメン屋、いま無職、48歳になってもまだオナニーを止められない親父。ほとんど口をきかず、ウサギを偏愛している妹セツ。--いまは、高田馬場の家畜小舎みたいなアパートに住んでいる。「私」は、ある学校のサッカー部の「彼」を、尊敬している。「彼」は「私」のことを、一人前の男にしてやるといって、元赤線の娼婦みどりのところへ連れていった。全裸のみどりの愛撫をうけながら、妹とお医者さんごっこをしたこと、女医に乳房を押しつけられたことなど少年時代のことを想い出したが……いつのまにか、「私」は娼婦の部屋から、はだしで逃げ出していた。おばあちゃんは、隣りの部屋の金さんから、セツの、ウサギの可愛がり方が異常だといわれ、金さんにウサギを殺させる。これを知ったセツは大変なショックをうけ、家を飛び出し、一晩中表をさまよい歩いたあげく、サッカー部の脱衣所にさまよい込み「彼」をふくむ部員たちから輪姦される。セツを追ってきた「私」は、セツと「私」が兄妹だと知らない彼らから輪姦の仲間にいれてやるといわれ、口ごもりながら辞退する。おばあちゃんは養老院に入れられることを嫌って家出する。「私」は、ぐうたらな親父を立ち直らせようと思い、ラーメンの屋台車を手に入れることを「彼」に頼む。一方、もと兵隊だった親父は、最近、傷痍軍人の幻影につきまとわれている。故る日、「彼」のアパートで、「彼」と彼女が愛し合うのを見るが、二人は「私」に“三人でしよう”と誘う。しかし、「私」はどうしても彼等の世界に入り込むことができず人力飛行機や娼婦の部屋で娼婦に迫られる、幻想の世界をさまよう。「私」は、強くなりたいと思う。たとえば、彼のように! しかし、その「彼」は、セツと同棲するといいだす。「彼」が語っていた“新家族”は、どこへ消えてしまったのか……。結婚、3DK、カラーテレビ、片隅の幸福「私」は胸に怒りが溢れてきた。「彼」が手に入れた屋台車は盗品だった。「私」は刑事に手錠をかけられ、連行される。そして「私」は映画の中の「演技」の私に訣別する。