「青空恋をのせて」のストーリー

水の都ヴェニスのカーニヴァル祭、戦争中とは云え、さすがに人は歌い、笑い、さんざめき、お祭気分に酔いしれています。ロジャー・クレーグというアメリカの若い飛行中尉は、女に掛けては凄腕という評判の持ち主でしたが、その日、雑踏の中で水もしたる様な美女を見掛けたので、例によって、彼一流の押しで突進することにしました。結果は着々と運ばれて、自分の邸宅へ誘い、食卓、さて、その次という段取になりますと、彼女は傍らにあった甲冑に身を固め寝室に現れるという始末で、さすがのロジャーも散々に男を下げてしまいました。翌朝、パリの名女優で、戦争中にも拘らず、素晴らしい人気を持ち若い士官たちに血道を挙げさせて困るという理由から、各国の代表者に懇願されて、このヴェニスの別荘に滞在しているリリ・ド・ロッソオ嬢は、昨夜の出来事を思い浮かべ乍ら、微笑を感じます。評判の自称ドン・ファン、ロジャー中尉の自信を跡方なく粉砕した気持ちのよさと、同時にその男に対する好意に似た気持ちです。ところが、今彼女の平和を掻き乱す事件が突発しました。パリで彼女の代役を勤めている女優が、素晴らしく売出し、当のリリの影が甚だ薄くなってしまったという知らせです。彼女なるもの今日ただ今パリへ帰らねばなりません。それには、飛行機より他はないのですが、今は戦争中です。その時、彼女を訪れたのは、ロジャーでした。素性も名も知らない女でしたが、彼とても、すっかり夢中になっているので、リリの頼みに、厳しい軍規を忘れて、その日のうちに、彼女の身柄をパリへ送り届けるのを承諾して了います。パリです。やっと彼女を送ったロジャーは、とうとう憲兵に見つけ出され、あわや脱走兵として軍法会議に掛けられようという間際でした。フランス大使が、いと丁寧にロジャーを招待しました。それによると、営倉どころではなく、却ってお賞めの言葉に与り、リリを連れて、早くヴェニスへ帰ってくれというのです。--すなわち、非常時のパリはリリにいて貰いたくないのです。リリをパリから去らせる魅力はロジャー・クレーグ中尉唯一つなのです。しかし、当のロジャーは、今初めて、彼女の素性と名前を知ったのですから世話はありません。