「海に降る雪」のストーリー

今里塩子は、ボランティアを特集したTV番組に出演した際、効果音担当の井岡裕一と知り合う。塩子は秋田県出身で、旅行代理店に勤めていた。裕一は山形県出身である。2回目のデートで、裕一は塩子のアパートに泊まった。その日から、塩子の部屋で同棲生活が始まった。ある晩二人は、塩子の同僚・早苗のヤケ酒につき合う。男にふられたとしたたか飲んで千鳥足の早苗は、裕一の同僚・大沢の部屋に運び込まれた。改めて飲み始める四人。帰途、突然足がしびれた塩子はうずくまった。幼い頃の持病が時折再発するのだった。塩子をおぶって歩く裕一。塩子の前の恋人は、ボランティア仲間だった桜田である。彼は商社マンとして中近東へ出張していた。その桜田の件で、塩子の義兄・古田亮が訪ねて来た。桜田は、彼の会社の同僚でもあった。桜田が2年ぶりに帰国するからと交際の続行をすすめる古田に、「兄さんの気が軽くなるからでしょ」と塩子はなじる。かつて彼女は、古田に犯された苦い体験があったのだ。クリスマス・イヴ。塩子は帰国した桜田と会い、裕一と同棲していることを打ち明けた。一方クリスマス・パーティの準備をして、塩子の帰りを持っていた裕一は、つい彼女の日記を読んでしまう。義兄に犯されたこと、桜田のこと、裕一は塩子の過去を知り、帰ってきた彼女に冷く当たった。日記を読まれたと知った塩子は、汚ないとなじり、「鍵を置いて出て行って!」と裕一を追い出した。年が明け、大沢の家を訪れた裕一は、ヤケ酒の夜以来、住みついているという早苗から、塩子が会社をやめたことを聞いた。ある夜、TV局から出て来る裕一を、塩子が待っていた。裕一は彼女をホテルに連れて行った。再び同棲生活が始まった。塩子は妊娠していることに気付いたが、何事にも肝心の点にふれようとするとはぐらかしてしまう裕一を見ていると言い出せない。いらだちが積もり、裕一の汚ない面ばかりが目につき、塩子は彼と激しく言い争ってしまう。ある日、偶然に裕一の方から、塩子が堕胎したことに気づく。自省の念に目が覚め、心からのいたわりと優しさをもって彼は塩子に接するが、間もなく別れの時が来た。「いつかもう一度会おう」と約束し、塩子は故郷へ向かう列車に乗った。北国の駅に降りた彼女の眼に、昔と変わらず海に雪が降っている状景が移った。