「日本フィルハーモニー物語 炎の第五楽章」のストーリー

その日、日本フィルは経営主である放送局から援助打ち切りを通告された。長く激しい討論の末、指揮者の堂本をはじめ多くの団員はそれぞれの道に進むことを選び、残された者は独自で日本フィルを続けていくことになった。入団して間もない樺沢昇も、その中の一人だ。局からガス、電気を止められている事務所で存続を求めるファンを集めてのコンサートが開かれていた。その中に茂木伸子がいた。伸子は昇と同郷の長野県駒ヶ根市の出身で、過疎化の進む村の分校で教師をしていた。七年振りに会った伸子は成長しており、昇は伸子にひかれた。その夜、昇は伸子と語り明し、「運命は自分の意志で切り拓くもの」と言う彼女の言葉に勇気づけられ、自分の進む道を確信する。放送局の弾圧は日毎に厳しくなり、立て篭るビルの窓は地方公演の間に金網がはられていた。数日後、昇に伸子から手紙が届いた。アルプスで日本フィルのコンサートを開くため、仲間とその準備を着々と進めているという。一方、日本フィルは資金稼ぎのためハードな公演スケジュールをこなしていた。そして昇の先輩、仲本が過労のため急死した。追いうちをかけるように、招待していた指揮者ハチャトリアンの来日が病気のために中止となり、伸子たちが券を売っている公演も流れそうになる。楽団員たちは渡辺暁雄に指揮を頼みに日参した。そして、彼らの熱意に、渡辺は多忙なスケジュールをなんとか都合して、申し出を受けた。駒ヶ根市公演の日。心配していた客は満席の入りとなった。もち論、その中には生徒を連れた伸子がいた。大成功のコンサートに伸子の瞳から流れ出る涙は止まらなかった。